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1.喧嘩一番現る

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 俺は喧嘩で天下統一を果たしたが、その後は大人しく過ごしていた。
 
 大人しくしている間に、突如人は魔法が使えるようになった人達で溢れ。

 今の世は強盗、略奪など治安が悪化して混沌としている。

 みんなが魔法を使えた訳では無い。
 使えないものは無法者と呼ばれていた。

 そんなご時世、俺はとある雑居ビルの一室に来ていた。
 外はボロボロなのに、中は妙に新しいしセキュリティがしっかりしている。

「で? 何でうちに?」

 俺に向かい合っているガタイのいいスーツの男が片眉を上げて問いかけてきた。
 自分の答えは決まっている。

「俺は、大切な人を殺されたんだ! 俺みてぇな悲しい思いをする奴がもう出ないように! 人を守りたい! そう思ったッス!」

「うーん。言いたい事はわかるよ。敬語使えないの?」

 その人は眉間に皺を寄せて頭に手を当てて俯く。
 俺は敬語で話してるのになんでこんな顔をするのかが全くわからなかった。

「俺、敬語で話してるッスけど?」

 そう言うと再び頭に手を当ててため息をついた。俺の言葉遣いはそんなに変なんだろうか。

「はぁ。社会人経験は?」

「あります!」 

「どんな仕事?」

「コンビニッス!」

「あぁ。アルバイト。他には?」

「清掃とゴミ収集とガソスタと土建とトラック運転手とトビともく───」

「あぁー! わかったわかった! 何個くらいやったの?」

「十から先は覚えてないッス!」

「魔法は?」

「使えないッス!」

 再び頭を抱えるスーツの男。
 下を向きながら「でも、人手は欲しいしなぁ。育成まで時間かかるし、最後まで頑張れるとも限らないし……」何やらブツブツ言っている。

「あっ、今から実践で試験してもいい?」 

「おっす! なんすか!?」  

「フッ。俺と戦え」  

 その言葉を聞いて血が滾った。
 ここ五年、こんなに滾ったことは無かったから。
 昨年、喧嘩を売られた男をボコボコにした。仕返しに俺の大切な女が魔法で八つ裂きにされた。

 あれ以来、失意のドン底に居た俺は何も出来ずに過ごしていた。
 瑠奈と付き合いだしてからは真面目に働こうとして色んな職に付いたが喧嘩して辞めさせられることがほとんどだった。

 そんな俺を笑顔で励ましてくれた灯。
 喧嘩に明け暮れていた俺は、喧嘩で勝つ事でしか生きてる意味を見い出せなかった。

「上等だ!」

 立ち上がると少し広い部屋に案内された。
 ここは都内のビルだが、ワンフロアをこの会社が使っているようだ。

「少し身体を温めるぞ」

 スーツの男はそう言うと上着を脱いで身体を動かし始めた。
 俺はただ立っている。
 準備運動なんぞいらん。

 ただ殴って蹴ればいい。
 そうやって天下統一を果たした。

「よし。じゃあ、かかってこい」

 スーツの男は両手を自然な形で前に出して構える。手は少し軽く握るくらいにして。
 拳で殴る構えでは無い。

 この男は俺の事を下に見ているようだ。
 一発だ。
 俺にはそれで十分。

「オラァ!」

 自然体から放たれたモーションの無いストレート。俺はこれで大抵の奴を一撃で沈めてきた。
 渾身の一撃を放って俺は完全に油断していた。

 突如、顎に衝撃が走った。
 目が明るくなったり暗くなったりして平衡感覚を失った。
 何が起きたのかが俺には理解できなかった。
 それでも、これで諦めるようじゃ、天下統一はできない。

「ウラァァァ!」 

 伸ばした拳を横に振り回し裏拳を放つ。
 ドッと当たった手応えがあった。

 気づいた時には押し倒されて、腕を後ろに取られて組み伏せられていた。
 もがくがビクともしない。

「クソッ!」

「これが現実だ。喧嘩は強いんだろうが警護というのは甘いものでは無い。だがな。本当は一撃で終わらせるつもりだった。追撃してきたことは賞賛しよう」

 悔しかった。
 こんなにも俺が無力だとは思わなかった。
 俺には喧嘩しかないのに。
 あの天下統一は何だったのか。

 俺はここで終わる訳にはいかないのだ。
 まだもがく力は残っている。

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 力の限り身体をひねり、全身の筋肉を使い。
 後ろに乗っていたスーツの男を吹き飛ばした。
 男目掛けて飛び膝蹴りを放つ。

 男は両手で膝を受け止めた。
 鈍い音がして顔をゆがめている。
 その上から追撃の拳を打ち下ろす。

「はっ?」
  
 目の前に写るのはシミひとつない天井だった。
 真っ逆さまに後頭部からマットに落ちる。
 余りの衝撃に頭を抑えて悶える。

「ぐぅぅぅ。何が起きた!?」  

「ハッハッハッ! いや、お前パワーと根性あるな。あの状態から立ち上がられたの初めてだわ」

 スーツの男が笑っている。
 この男もかなりのガタイをしているが。
 俺も負けてないと自負していたが、上には上がいることを思い知らされた。

 俺はこんなに無力だったのか。そう思わされた。この人の元で鍛えたら強くなれるだろうか。

「でも、負けたッス! 俺を鍛えて欲しいッス!」

「まず、その言葉遣いを直さねぇとな。じゃないと客とも話せない」 

 言葉遣いを直すのはなんの意味があるのか俺にはわからなかった。

「何ぼうっとしてんだ? ここで働きたいんだろ?」

「あっ、はいッス!」

 立ち上がって直立に立つ。
 働きたいのはそうだが、負けたのにここで働けるのだろうか。

「ここは喧嘩をする会社じゃない。それは分かってるな?」

「はいッス! しんぺん? 警護の会社です!」

 スーツの男が眉間に皺を寄せて首を傾げている。
 何やら難しい顔をしているが、なんだというのだろうか。

「お前……ここがなにを護るための会社か知ってるか?」              

「はいッス! 大切な人を護る為の会社ッス!」

 求人情報に記載してあったホームページを見た時にデカデカと書いてあった謳い文句だ。
 まさしく俺のやりたい事、大切な人を護ること。その為にここに来たんだ。

「くっくっくっ。なるほど……たしかにうちのキャッチコピーは「大切な人を護りませんか?」と書いてあるな」

「はいッス! それ見て応募したんッス!」

「あぁ。そういう事。うん。でも、掘り出し物かもしれない。鬼のように鍛えれば───」

 何やらまたブツブツと呟いている。

 いきなり目の前に人差し指を立てる。
 中指なら立てられたことあるが……。

たて りょう。君を我々の身辺警護会社、イージスに迎え入れよう。しかし、条件がある」

「条件……ッスか?」

「一年。一年で我々と同格になるまで逮捕術を学んでもらう。話し方も矯正する。しっかりと敬語で話せるように。いいな?」

「はいッス!」

「俺はイージスの社長。白石しらいし まもるだ。以後、よろしく」

 固く握手を交わしてイージスへの入社が決まったのであった。
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