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1.最高の出会い

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 澄み渡った青空は砂煙でモヤがかかり、口の中はジャリジャリとした感触で泥の味さえする。
 この泥臭く怒号が飛び交い、人々を攻撃し合うこの世界は今、戦乱の世の真っ只中。

 一歩進めば接敵し。
 すぐ目の前で儚い一つの命が失われていく。
 そんな死臭の漂う中で、死体をかき集めている者がいる。

 みすぼらしいボロボロの衣服。右肩にのみ布を巻き、左肩には『集』と漢字がしるされていた。
 
 これは生まれながらに持っている漢字。この世界はみな一文字の漢字を持って生れ落ちてくる。
 
 ある人は水を出し、ある人は炎を出して戦う。皆、体にある印を輝かせていた。

「シュウイ! こっちの死体も邪魔だから集めろ! すぐそこに敵兵がいるから死ぬなよ⁉ 死んだら片付けが面倒だからなぁ!」
 
「わかりました。今集めます」

 感情の起伏の少ない受け答えをすると死体を集める為に左肩の漢字を発動させる。
 ボクの周りに死体やら武器、ゴミが渦巻いて集まってくる。

「一旦端におけ」
 
「わかりました。これ置いたら今度あっちですね?」
 
「そうだ! わかってんなら早く行ってこい!」
 
「……はい」

 返事はしたけど、動く気はない。それは何故か。実は物体以外にも集められるものがある。死体の持っていた漢字。これを触ることで集めることができる。

 毎回こうして死体からコツコツと漢字を集めて過ごしている。集めた漢字は、脳内にリストとして並んでいるが、総数は数えることができない程。それほど、この世は死体が多い。

 この死体は『天』とかかれたエリアに持っていき字力を込めるとキラキラと天へと昇って行くのだ。死体を燃やしたりはしない。こうして天へ送ってやるんだ。

「おい! まだか⁉ 早くしろ! 自軍の邪魔になってるからよぉ!」
 
「あぁ。すみません。今行きます」

 戦場を駆け巡るこの日々が日常だ。自分がいつか誰かの役に立てる日が来るように。育ててくれた爺さんに言われてこうして漢字を集めて過ごしていた。

 実の両親は目の前で殺された。
 なんとかこうして生きている。

 死体を集めに行くとどさくさに紛れて女性を襲っている男達三人がいる。男達は自軍の兵隊のようだ。

 女性は目に見えない何かで男を吹き飛ばして抵抗している。自分の前の男達に集中していたせいで後ろから近づく男に気が付かなかったのだろう。後ろから羽交い絞めにされてしまった。

 服を引き剥がしにかかる男達。女性は敵領の兵士だろう。こういうことがあると覚悟してきているのだからと、自分に言い聞かせる。

 死体を集めて戻ろうとすると女性がこちらをみた。目が合ってしまったが、ボクは見ないふりをした。そのまま立ち去ろうとする。

 女性の怒号が僕の耳を刺激する。声が、悲鳴が脳を揺さぶる。何のために今まで死体から漢字を集めてきたのか。それが脳裏をよぎり、自問自答する。

 ボクは自分が誰かの役に立ちたいからこうして隠れて漢字を集めてきたんだ。こういう人助けの時に使わなくていつ使うんだ。ボクを育ててくれた爺さんの声が聞こえた。

 男達を下すには、羽交い絞めにされている女性を引き離す必要がある。

 ボクの右肩《・・》、『使』を光らせて女性に向けて一つの漢字を放った。

 風船が破裂したような音を響かせながら女性は男達から放り出されるように離れた。
 女性に放った漢字は『離』。
 不審に思った男達はこちらを睨み付けた。

「ゴミ屋じゃねぇか!? お前なんかしたかゴラァ!?」
 
「いやいや。滅相もない。ただのゴミ掃除ですよ」
 
「あぁ!? ふざっ……」

 虫が死ぬような音を鳴らし、目の前にいた男達は『重』い何かに押し潰された。
 潰れた男達は物言わぬ屍だ。
 今使った文字は『重』。重さによって潰れたのだろう。

 自分でも漢字の能力の全容まではまだ計り知れていない。全ての文字を把握しているわけではないし、全ての能力もわからない。

 ボクはずっと漢字を集めてきた。
 もうあまり増えなくなってきたし、止めてもいい頃合かもしれない。
 潰れた男達も集めて漢字を回収すると『天』へと返す。

「あ、ありがとう。あなた、左肩と右肩に漢字を持っているの?」
 
「そうです。皆には内緒にしてたんですけど、見捨てられませんでした」
 
「ふふふっ。優しいのね? ねぇ、その恰好。ちゃんとした生活できてる?」
 
「家はありません。でも、ゴミを拾って綺麗になったら100ルノー貰えるんです」
 
「パン一個しか買えないじゃない!」
 
「パンの耳をおまけして貰ってます」
 
「そういうことじゃない!」

 ボクの目を見つめてくるその人はすごく綺麗な顔立ちをしていた。赤く長い髪を後ろで結んでスタイルがいい。男が好きそうな身体をしている。

「あなた、今の領に未練ある?」
 
「特にないです」
 
「そっ。なら、私と一緒に来ない? 美味しいご飯食べさせてあげる!」
 
「うーん。そう……」

 グゥゥゥゥゥ

 腹の虫は正直だった。
 クスリと笑うと手を引いて連れて行ってくれた。
 後ろで誰かの怒号が聞こえた。でも、もうボクには関係のない人の声だ。

 この出会いがボクの人生を最高のものに変えてくれるだろう。
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