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37.地獄の鬼

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 盗賊は逃げることに必死だ。
 後ろを振り返りながら山を登っていく。
 追っていることはわかっているようだが、おかまいなしだ。

 サーヤは息を切らし始めている。
 ヤマトなんか具合が悪いからやる気がないのだろう。後方から歩いてついてきている。

 盗賊は捕まえたとしても、死罪だ。
 であれば、俺が始末しても対して変わらない。

 探索者ギルドの依頼の中にも盗賊の討伐依頼はある。
 報酬ももらえることだし、根城を潰すのは感謝しかされない。

 前を行く盗賊たちは山の上の森へと入っていく。
 ここからは視界が悪くなる。
 サーヤの魔力探知を当てにするか。

「サーヤ。あいつらを魔力探知できるか?」

「それが、この森は魔力が多くて……」
 
「探知できないか。ならいい。昔のように気配と匂いで探る」

 幸いなことに、あいつらは血なまぐさい。
 匂いで追いやすい。

 森の中に入ると少し平坦なところはあるが、その先は下り坂になっている。
 下り坂になれば、上から追う俺達には有利だ。
 しかし、盗賊の姿はなくなっていた。

「ししょー。いませんね?」

「大丈夫だ……左下に下りたようだな」

 匂いがそう告げている。
 ヤマトは完全に見えなくなっているが、かまうことはない。
 アイツはついてこれる。

 少し急になっているところを木を掴みながらゆっくりと下りていく。

 匂いが近い。
 サーヤに手を貸しながら下りていく。
 滑ってしまうがなんとかアジトらしきところまでついた。

 坂の中腹にある洞窟の中がアジトらしい。
 血の匂い以外にも体臭の様な匂いも混じっている。
 鼻が曲がりそうだ。

 これだから盗賊は嫌いだ。
 洞窟を崩さないようにしないとな。

「入るぞ」

「はぃ」

 サーヤの顔は強張っているが、覚悟を決めた目だ。
 俺が先頭を行って警戒する。
 洞窟の中は松明の明かりが照らされている。

「いやぁぁぁ! やめてぇぇ!」

 胸糞悪い声が聞こえてくる。
 はぁぁ。とため息をつきサーヤを見ると青い顔をしている。

 たしかにこの声は精神衛生上よくないな。
 もしもマナだったらと思うと、怒りが湧きあがってくる。
 
 さて、どうしたものか。
 そうだ。こちらに目を向けさせよう。

「くそとうぞくどもぉぉぉ! 地獄の鬼のお出ましだぞぉぉぉ!」

 手加減するつもりはない。
 腕輪へと魔力を流し込む。出力を抑えて使う。
 最近制御ができるようになってきた。

 ブランクあって最初は制御できなかったが、ようやく慣れてきた。

 拳の部分にだけ赤黒の煙を纏う。

 人がワラワラと出てきた。
 なるほど、結構大きな盗賊団だったようだ。
 これは殺しがいがある。

「ふぅぅぅ。連鬼れんき
 
 視認が不可能なほどの速さで繰り出された連続した突き。その突きの後を追うように腹に響く地鳴りのような音が連続し手響き渡る。
 
 その音の鳴りやんだ後は、血にまみれた盗賊たちが倒れ伏していた。

「なん! なんなんだてめぇぇはぁぁ!」「うわぁぁぁ!」「ばけもんだぁぁ!」

 俺はゆっくりと奥へと進む。
 サーヤは目を瞑りながら恐る恐る歩いてくる。
 足元には物をいわぬ血まみれの屍。

 血の匂いが洞窟へと充満している。
 サーヤにはキツイ匂いかもしれない。
 これほどの血の匂いは初めて嗅ぐ匂いだろう。

「うっぷ」

 耐えてはいるが、いつまで持つかわからない。
 この状況は慣れなければ辛い。
 しかし、いずれ経験しなければいけない山場だ。

 あえて何も言わずに奥へと進む。
 盗賊たちは奥へと逃げているようだ。
 どうせ死ぬというのに。

「うらぁぁ!」「しねぇぇ!」

 両脇から襲いに来る盗賊。それを左フック、右ストレート。頭を潰す。

 どうして自分達だけが好き勝手できると思っているんだ?

 なんで弱いものはお前たちの好きにしていいんだと思っている?

 なぜ自分がやられないと思っている?

 頭に血が昇ってきたぜぇ。

「きさまらぁぁぁ! かかってこいやぁぁぁ!」

 咆哮は洞窟を震わせ、盗賊たちは震えあがっている。

 奥へ奥へと進んでいくと盗賊たちは一塊になっていた。

 何をしているのかと思えば、裸にいた女を三人盾にしている。

「俺はここの頭だ! そこを動くな! この女たちを殺してもいいのか!?」

「ほう。腐った頭で考えたことがそれか?」

 俺の怒りは腕輪へと蓄積されていく。
 怒りの赤黒い煙は中空へと放出されていく。

 女たちがどうでもいいというわけではない。
 助けるのは簡単だ。
 ただ盗賊を殺せばいいだけ。

 両手の指を一本立て、腕を引き絞る。
 ここからはピンポイントに盗賊を殺す。

 自分の前へと留まった赤黒い煙。
 それを突く。

空鬼くうき轟鬼とどろき

 轟音が響き渡り、赤黒い煙が棘のように射出されていく。

 女の後ろに隠れてきた男たちの頭を寸分違わず射抜いた。

 立っていたのは裸の女と俺達のみ。
 
 女たちは揃って尻餅をついた。
 顔は青ざめている。
 あんなひどい目に合わされたのだから当然だろう。

 そしてこの血の匂いも。
 青ざめている要因だと思われる。
 
「サーヤ、着替えをわたしてやれ」

「うっ……はい!」

 荷物から着替えを出すと女へ渡した。
 その後は外へ連れていかせて、外にいたヤマトと待たせた。

 中を探索し、マナを探したがここにはいなかった。

「サーヤ、大丈夫か?」
 
「はい。なんとか。この人たちは?」

「次の街でギルドへと引き渡そう」

 ここの洞窟はもうない方がいい。

「サーヤ、ヤマト、離れていろ」

 二人を少し離す。

 赤黒の煙を腕に纏わせる。
 出力を上げた一撃を放つ。

突鬼とっき

 爆発したような音が山を震わせる。
 穴は埋められ、頂上は所々が陥没した姿に変わってしまった。
 その山を慎重に下りていくのであった。
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