憤怒のアーティファクト~伝説のおっさん、娘を探すために現役に復帰し無双する~

ゆる弥

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19.抜け穴

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「ふぁぁぁあふ」

 俺は思わずあくびをしてしまった。
 昨晩は半分覚醒しながら寝ていたわけで、寝相なのかわからないが。
 一度ヤマトの襲撃を受けて跳ね除けた。

 そんなこんなしていたら寝不足になってしまったのだ。

「ししょー大丈夫ですか?」
「あぁ。昔を思い出した」
「昔もそうだったんですか?」
「あぁ。だが、まだ他にも仲間がいたからなぁ。だから分散されていたんだが」

 あの時の事を思い出して遠くを見つめる。
 この谷は朝になっても暗いまま。光が下まで届かないのだ。

「ししょー。大変だったんですねぇ」

 俺とサーヤは身支度を整える。
 ヤマトはいつもの黒いタンクトップに作業着のようなダボダボのズボンを履いている。

 背中には大盾を背負い。
 それに布の袋を手に持ち肩にかける。それがいつものスタイルだ。

「おぉーっし、いくかぁ」

 外に出るとヤマトを先頭に歩いていく。
 家は結界で閉じ込めるそうだ。

 ヤマトは結界の魔法を得意とする。
 だから、前で敵の注意を引きつける役割をしていた。

 体つきを見ると痩せてはいるが筋肉質。若干衰えてはいるのだろうが、そこまでなまってはいないのだろう。

「ししょー? ここからどうやって出るんです? また登るんですか?」
「いや、ヤマトについて行けば抜け道がある。ただ、抜けた先は迷いの森だ。よく迷うから気をつけろ? 単独では行動しないようにな?」
「は、はい! わかりました! ずっとくっついてます!」

 サーヤは元気よくそう返事をした。
 俺は別にくっついていろとは言っていないのだが。

 ヤマトは奥の方へと暗い中進んでいった。この暗い中でも出口の場所を把握しているようだ。

 突然立ち止まったヤマトは手を払うような仕草を見せた。するとその方向から風が来る。暗くて見えないが穴が空いているようだ。

「今結界を解除した。ここを通ったらまた結界を張るから俺様は最後に行く。サーヤはガイルのケツを追いかけていけ」
「おい! 言い方! サーヤが困るだろう!」
「大丈夫だから、早く行け!」

 サーヤはピッタリと後ろについてきている。あんなこと言われて嫌じゃないんだろうか。大丈夫か心配になる。

「サーヤ、嫌な時は嫌だって言っていいんだぞ?」
「……」
「大丈夫か?」
「嫌じゃないので無言でした」
「あぁ、そういうこと」

 黙々と後ろからついてくると決めたようだ。
 先は俺が指から炎を出して見えるようにしている。

「オォォォォ」
 何かが泣く声が聞こえた。

「ん? なにか聞こえたよな?」
「聞こえましたか?」
 サーヤには聞こえていないようだ。

「ガイルよぉ、もう忘れちまったのか? この先にいるインシーをよぉ」

 ヤマトに言われて背筋が泡立った。
 魔力を流し込み赤黒の煙を拳に纏わせる。

「ししょー?」
「衝撃に備えろ! 来るぞ!」

「オォォォォオ」
 徐々に声が響き渡る。
 この魔物は中級ながら突進力が凄い魔物である。広い場所だと討伐は容易だ。

 タイミングを見計らって、貫手で構える。

貫鬼ぬき

 一点集中型の技を放つ。

 ──ドンンンッッッ

 勢いのまま滑ってきたインシーは特徴的な鼻は残しつつ頭の部分から後ろはスッポリ穴が空いている状態であった。

「わぁ、驚きましたぁ……すごい衝撃……」
「穴の中だからな。仕方ない。この穴はヤマトが結界で補強しているからこんなことができるんだ。じゃなきゃ崩れて生き埋めだ」
「そうですよねぇ。すごい衝撃ですもんね」

 サーヤは唖然としているが、ヤマトはケラケラと笑っていた。

「ハッハッハッ! たしかに腕はなまってねぇみてぇだなぁ。けど、インシーも忘れるたぁ、物忘れが酷くなってきたんじゃねぇか?」
「そうだな。お前のことも誰だかわからなくなるかもな?」
「はぁ!? お、お前! それはダメだぞ!?」
「いやー。物忘れが酷いから誰だか分からなくなるかもな」

 慌てるヤマトを嘲笑いながらそう話すと、思わぬところから横槍が入った。

「ししょー、計算をしたり、字を書いたりすると物忘れ防止になるみたいですよ?」
「勘弁してくれよ……。計算は苦手なんだ。字を書くなんて面倒。おれはなぁ、別にどっちもできなくても生きてこられたんだ!」
「あぁー。いますよねぇ。そういう人。良くないですよ? これからは必要になるかもしれないですし、やった方がいいですよー?」
「く、ぐぬぬ……」

 娘のようなサーヤにそう言われると何も言えなくなってしまう。でも、苦手なものは苦手なんだ。

 昔、妻のリサに買い物を頼まれた時だ。このお金でこれとこれを買ってきてと頼まれた時、俺は美味しそうなものを選んだんだ。

 そしたら、残りのお金でもうひとつの物が買えなくなってしまったんだ。あれは、リサが多く持たせなかったのが悪いのだ。

「ねっ? やりましょ? 私のことも忘れられたら困りますもーん」
「俺は、忘れない! だから、そんな事もやらん!」
「えぇー! 絶対忘れないでくださいよー!?」
「忘れるわけがない!」

 断言できる。サーヤのことを忘れるわけがない。もう二人目の娘みたいに思っているんだからな。

 マナのことだって、一時も忘れた時はない。

 歩く先には俺達のこれからの運命を示すかのように、光が溢れていた。
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