19 / 42
19.抜け穴
しおりを挟む
「ふぁぁぁあふ」
俺は思わずあくびをしてしまった。
昨晩は半分覚醒しながら寝ていたわけで、寝相なのかわからないが。
一度ヤマトの襲撃を受けて跳ね除けた。
そんなこんなしていたら寝不足になってしまったのだ。
「ししょー大丈夫ですか?」
「あぁ。昔を思い出した」
「昔もそうだったんですか?」
「あぁ。だが、まだ他にも仲間がいたからなぁ。だから分散されていたんだが」
あの時の事を思い出して遠くを見つめる。
この谷は朝になっても暗いまま。光が下まで届かないのだ。
「ししょー。大変だったんですねぇ」
俺とサーヤは身支度を整える。
ヤマトはいつもの黒いタンクトップに作業着のようなダボダボのズボンを履いている。
背中には大盾を背負い。
それに布の袋を手に持ち肩にかける。それがいつものスタイルだ。
「おぉーっし、いくかぁ」
外に出るとヤマトを先頭に歩いていく。
家は結界で閉じ込めるそうだ。
ヤマトは結界の魔法を得意とする。
だから、前で敵の注意を引きつける役割をしていた。
体つきを見ると痩せてはいるが筋肉質。若干衰えてはいるのだろうが、そこまでなまってはいないのだろう。
「ししょー? ここからどうやって出るんです? また登るんですか?」
「いや、ヤマトについて行けば抜け道がある。ただ、抜けた先は迷いの森だ。よく迷うから気をつけろ? 単独では行動しないようにな?」
「は、はい! わかりました! ずっとくっついてます!」
サーヤは元気よくそう返事をした。
俺は別にくっついていろとは言っていないのだが。
ヤマトは奥の方へと暗い中進んでいった。この暗い中でも出口の場所を把握しているようだ。
突然立ち止まったヤマトは手を払うような仕草を見せた。するとその方向から風が来る。暗くて見えないが穴が空いているようだ。
「今結界を解除した。ここを通ったらまた結界を張るから俺様は最後に行く。サーヤはガイルのケツを追いかけていけ」
「おい! 言い方! サーヤが困るだろう!」
「大丈夫だから、早く行け!」
サーヤはピッタリと後ろについてきている。あんなこと言われて嫌じゃないんだろうか。大丈夫か心配になる。
「サーヤ、嫌な時は嫌だって言っていいんだぞ?」
「……」
「大丈夫か?」
「嫌じゃないので無言でした」
「あぁ、そういうこと」
黙々と後ろからついてくると決めたようだ。
先は俺が指から炎を出して見えるようにしている。
「オォォォォ」
何かが泣く声が聞こえた。
「ん? なにか聞こえたよな?」
「聞こえましたか?」
サーヤには聞こえていないようだ。
「ガイルよぉ、もう忘れちまったのか? この先にいるインシーをよぉ」
ヤマトに言われて背筋が泡立った。
魔力を流し込み赤黒の煙を拳に纏わせる。
「ししょー?」
「衝撃に備えろ! 来るぞ!」
「オォォォォオ」
徐々に声が響き渡る。
この魔物は中級ながら突進力が凄い魔物である。広い場所だと討伐は容易だ。
タイミングを見計らって、貫手で構える。
「貫鬼」
一点集中型の技を放つ。
──ドンンンッッッ
勢いのまま滑ってきたインシーは特徴的な鼻は残しつつ頭の部分から後ろはスッポリ穴が空いている状態であった。
「わぁ、驚きましたぁ……すごい衝撃……」
「穴の中だからな。仕方ない。この穴はヤマトが結界で補強しているからこんなことができるんだ。じゃなきゃ崩れて生き埋めだ」
「そうですよねぇ。すごい衝撃ですもんね」
サーヤは唖然としているが、ヤマトはケラケラと笑っていた。
「ハッハッハッ! たしかに腕はなまってねぇみてぇだなぁ。けど、インシーも忘れるたぁ、物忘れが酷くなってきたんじゃねぇか?」
「そうだな。お前のことも誰だかわからなくなるかもな?」
「はぁ!? お、お前! それはダメだぞ!?」
「いやー。物忘れが酷いから誰だか分からなくなるかもな」
慌てるヤマトを嘲笑いながらそう話すと、思わぬところから横槍が入った。
「ししょー、計算をしたり、字を書いたりすると物忘れ防止になるみたいですよ?」
「勘弁してくれよ……。計算は苦手なんだ。字を書くなんて面倒。おれはなぁ、別にどっちもできなくても生きてこられたんだ!」
「あぁー。いますよねぇ。そういう人。良くないですよ? これからは必要になるかもしれないですし、やった方がいいですよー?」
「く、ぐぬぬ……」
娘のようなサーヤにそう言われると何も言えなくなってしまう。でも、苦手なものは苦手なんだ。
昔、妻のリサに買い物を頼まれた時だ。このお金でこれとこれを買ってきてと頼まれた時、俺は美味しそうなものを選んだんだ。
そしたら、残りのお金でもうひとつの物が買えなくなってしまったんだ。あれは、リサが多く持たせなかったのが悪いのだ。
「ねっ? やりましょ? 私のことも忘れられたら困りますもーん」
「俺は、忘れない! だから、そんな事もやらん!」
「えぇー! 絶対忘れないでくださいよー!?」
「忘れるわけがない!」
断言できる。サーヤのことを忘れるわけがない。もう二人目の娘みたいに思っているんだからな。
マナのことだって、一時も忘れた時はない。
歩く先には俺達のこれからの運命を示すかのように、光が溢れていた。
俺は思わずあくびをしてしまった。
昨晩は半分覚醒しながら寝ていたわけで、寝相なのかわからないが。
一度ヤマトの襲撃を受けて跳ね除けた。
そんなこんなしていたら寝不足になってしまったのだ。
「ししょー大丈夫ですか?」
「あぁ。昔を思い出した」
「昔もそうだったんですか?」
「あぁ。だが、まだ他にも仲間がいたからなぁ。だから分散されていたんだが」
あの時の事を思い出して遠くを見つめる。
この谷は朝になっても暗いまま。光が下まで届かないのだ。
「ししょー。大変だったんですねぇ」
俺とサーヤは身支度を整える。
ヤマトはいつもの黒いタンクトップに作業着のようなダボダボのズボンを履いている。
背中には大盾を背負い。
それに布の袋を手に持ち肩にかける。それがいつものスタイルだ。
「おぉーっし、いくかぁ」
外に出るとヤマトを先頭に歩いていく。
家は結界で閉じ込めるそうだ。
ヤマトは結界の魔法を得意とする。
だから、前で敵の注意を引きつける役割をしていた。
体つきを見ると痩せてはいるが筋肉質。若干衰えてはいるのだろうが、そこまでなまってはいないのだろう。
「ししょー? ここからどうやって出るんです? また登るんですか?」
「いや、ヤマトについて行けば抜け道がある。ただ、抜けた先は迷いの森だ。よく迷うから気をつけろ? 単独では行動しないようにな?」
「は、はい! わかりました! ずっとくっついてます!」
サーヤは元気よくそう返事をした。
俺は別にくっついていろとは言っていないのだが。
ヤマトは奥の方へと暗い中進んでいった。この暗い中でも出口の場所を把握しているようだ。
突然立ち止まったヤマトは手を払うような仕草を見せた。するとその方向から風が来る。暗くて見えないが穴が空いているようだ。
「今結界を解除した。ここを通ったらまた結界を張るから俺様は最後に行く。サーヤはガイルのケツを追いかけていけ」
「おい! 言い方! サーヤが困るだろう!」
「大丈夫だから、早く行け!」
サーヤはピッタリと後ろについてきている。あんなこと言われて嫌じゃないんだろうか。大丈夫か心配になる。
「サーヤ、嫌な時は嫌だって言っていいんだぞ?」
「……」
「大丈夫か?」
「嫌じゃないので無言でした」
「あぁ、そういうこと」
黙々と後ろからついてくると決めたようだ。
先は俺が指から炎を出して見えるようにしている。
「オォォォォ」
何かが泣く声が聞こえた。
「ん? なにか聞こえたよな?」
「聞こえましたか?」
サーヤには聞こえていないようだ。
「ガイルよぉ、もう忘れちまったのか? この先にいるインシーをよぉ」
ヤマトに言われて背筋が泡立った。
魔力を流し込み赤黒の煙を拳に纏わせる。
「ししょー?」
「衝撃に備えろ! 来るぞ!」
「オォォォォオ」
徐々に声が響き渡る。
この魔物は中級ながら突進力が凄い魔物である。広い場所だと討伐は容易だ。
タイミングを見計らって、貫手で構える。
「貫鬼」
一点集中型の技を放つ。
──ドンンンッッッ
勢いのまま滑ってきたインシーは特徴的な鼻は残しつつ頭の部分から後ろはスッポリ穴が空いている状態であった。
「わぁ、驚きましたぁ……すごい衝撃……」
「穴の中だからな。仕方ない。この穴はヤマトが結界で補強しているからこんなことができるんだ。じゃなきゃ崩れて生き埋めだ」
「そうですよねぇ。すごい衝撃ですもんね」
サーヤは唖然としているが、ヤマトはケラケラと笑っていた。
「ハッハッハッ! たしかに腕はなまってねぇみてぇだなぁ。けど、インシーも忘れるたぁ、物忘れが酷くなってきたんじゃねぇか?」
「そうだな。お前のことも誰だかわからなくなるかもな?」
「はぁ!? お、お前! それはダメだぞ!?」
「いやー。物忘れが酷いから誰だか分からなくなるかもな」
慌てるヤマトを嘲笑いながらそう話すと、思わぬところから横槍が入った。
「ししょー、計算をしたり、字を書いたりすると物忘れ防止になるみたいですよ?」
「勘弁してくれよ……。計算は苦手なんだ。字を書くなんて面倒。おれはなぁ、別にどっちもできなくても生きてこられたんだ!」
「あぁー。いますよねぇ。そういう人。良くないですよ? これからは必要になるかもしれないですし、やった方がいいですよー?」
「く、ぐぬぬ……」
娘のようなサーヤにそう言われると何も言えなくなってしまう。でも、苦手なものは苦手なんだ。
昔、妻のリサに買い物を頼まれた時だ。このお金でこれとこれを買ってきてと頼まれた時、俺は美味しそうなものを選んだんだ。
そしたら、残りのお金でもうひとつの物が買えなくなってしまったんだ。あれは、リサが多く持たせなかったのが悪いのだ。
「ねっ? やりましょ? 私のことも忘れられたら困りますもーん」
「俺は、忘れない! だから、そんな事もやらん!」
「えぇー! 絶対忘れないでくださいよー!?」
「忘れるわけがない!」
断言できる。サーヤのことを忘れるわけがない。もう二人目の娘みたいに思っているんだからな。
マナのことだって、一時も忘れた時はない。
歩く先には俺達のこれからの運命を示すかのように、光が溢れていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる