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5.知らない魔法
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食事を終えた俺達は街道を通って下って行っている所。右手には大きな湖が広がってる。鮮やかな青い光が時折反射してサーヤの顔を青く染めている。
髪の色も相まって人魚かと錯覚に陥ってしまいそうになる。サーヤは彫りの少ない整った顔をしている。マナは娘ながら目鼻立ちがクッキリとして美人だと思う。
対称的な二人の顔を脳裏に浮かべながら客観的にどちらも綺麗な顔だなとそう漠然と考えている。どちらにしても親バカだ。
「ししょー? どうしたんですか? ワタシの顔なんか見て?」
「いや、綺麗な顔だなと思ってただけだ」
「えぇ!? ちょっと、なんですか? そんなこと言われても娘さんにはなれませんよ?」
「はっ! そんなこたぁ、わかってる。マナの方が綺麗だからな」
「むー。見たことないけど、会うの楽しみです!」
嬉しそうにそう言いながら坂を下っていく。我ながら親バカな発言だったなと反省しながら後に続く。
この湖は大きいため、迂回すると対岸に着くのに一日かかる。東に行ったところには棚田になっていて米がよく取れるイグンという街がある。
もうすぐ棚田が見えてくるといい所まで差し掛かったが、湖をよく見ると何かが陸に上がって来ている。
「ん? ありゃあ……」
「師匠、あれはなんですか?」
「あれは半魚人の魔物だ」
「へぇ。あれは魚人の一種ではないんですね?」
「ありゃ、中級の魔物だからな。サーヤには丁度いい相手だな」
そう呟きサーヤの顔を見ると顔に似合わず獰猛な笑みを浮かべていた。
この子は戦うことが好きな部類なのだと理解した。マナもそうだった。嬉々として魔物を狩りに行きダンジョンに潜った。
たまたま死ぬ事がなく上へと上り詰めた訳だが。急に消息を絶つとは思っていなかった。
「ししょー! ワタシ、倒しに行きます!」
「おう? 大丈夫か?」
「はい!」
棚田めがけて襲いに来ていた魚人共を倒すようだ。指輪の着いた手を向ける。
「アクアショット!」
放たれた水弾は魚人に向かっていきダメージを与える。効果はいまひとつのようだ。しかし、意識はこちらに向いてしまった。
「サーヤ! 奴らはこっちに来るぞ!」
「はい! 更にいきます!」
サーヤは練る魔力を高めていく。
そして、渾身の魔法を放った。
「アクアカッター!」
射出された水のレーザーは左から右へと横薙ぎに振るわれ、魚人達を真っ二つにした。
それには俺も感心してしまった。なるほど、水にはそんな使い方があるんだなと。数年で魔法の概念も色々と変わってきている。
以前は水の魔法といえば水弾を放つか水を大量に使った波を起こすか。そのような選択しかなかったと思う。
あのようなレーザーで魔物を斬り飛ばすなど考えられなかった。凄い進歩である。
「どうですか?」
「感心したよ。まさかそんな魔法があるなんてな。俺も現役を退いていたから色々と変わっているみたいで驚いたよ」
「えっ!? もしかしてアクアカッターなかったんですか?」
「あぁ。俺が現役の時はな。だから驚いた」
それを聞いたサーヤは機嫌良さそうにルンルンと足を弾ませて街へと向かっていく。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「なんか師匠が知らない魔法をワタシが使ってるって嬉しいなぁと思って!」
「ふっ。そうだな。魔法に関しては俺が教えられることはないかもしれんな……」
近づく街並みを見ながら漠然とそう話す。すると、サーヤは目の前にやって来て心配そうな目で俺を見上げた。
「だからって、ワタシを見捨てないですよね?」
「ん? どういうことだ?」
「教えられることはないからと、ワタシを置き去りにして一人で生きろとか言わないですよね!?」
「はっ。そんなこと言う程落ちぶれちゃあいない。それになぁ。探索者に必要なことは山ほどある。魔法だけじゃない。だから安心しろ」
そう口にすると俺は思わずサーヤの頭を撫でてしまった。
すると、サーヤの顔は真っ赤になりサッと離れてしまった。
「あっ。すまん。思わず娘のように頭を撫でてしまった」
「いえ……いいんです……嫌じゃないし……」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ! 大丈夫です! ははははっ!」
おかしなテンションになったサーヤは視線の先に見えているイグンへと向かっていった。
街は壁で覆われてはいるが、棚田などは対策がされていないようだった。あの半魚人が襲ってきそうだが、棚田は大丈夫なんだろうか。
湖は綺麗な夕日を輝かせてそんな魔物などいないかのような佇まいである。こんなに綺麗な湖に魔物がいるかと思うと複雑な気持ちだ。
「ししょー! 早く行きますよ! 暗くなっちゃう!」
「わかったから。あんまり急ぐと転ぶぞ?」
「そんなヘマしませんよ! はや──」
──ズシャァァァァ
サーヤは顔面から地面にダイブしていった。だから言ったのに。
近づいていくと倒れているサーヤの、横に膝を着いて様子を見る。
「大丈夫か?」
「うー。恥ずかしいです」
「誰も見てないさ。大丈夫だ」
「ししょーが見てました!」
「俺も湖を見ていて転んだところは見なかったぞ?」
「本当ですか?」
「あぁ」
機嫌を直して起き上がったところで顔についている泥を布で拭いてやる。服についた土もはらいながら立ち上がる。
「さぁ、行くか」
「はい! 行きましょー!」
街へ向けてまた二人で歩き出した。
髪の色も相まって人魚かと錯覚に陥ってしまいそうになる。サーヤは彫りの少ない整った顔をしている。マナは娘ながら目鼻立ちがクッキリとして美人だと思う。
対称的な二人の顔を脳裏に浮かべながら客観的にどちらも綺麗な顔だなとそう漠然と考えている。どちらにしても親バカだ。
「ししょー? どうしたんですか? ワタシの顔なんか見て?」
「いや、綺麗な顔だなと思ってただけだ」
「えぇ!? ちょっと、なんですか? そんなこと言われても娘さんにはなれませんよ?」
「はっ! そんなこたぁ、わかってる。マナの方が綺麗だからな」
「むー。見たことないけど、会うの楽しみです!」
嬉しそうにそう言いながら坂を下っていく。我ながら親バカな発言だったなと反省しながら後に続く。
この湖は大きいため、迂回すると対岸に着くのに一日かかる。東に行ったところには棚田になっていて米がよく取れるイグンという街がある。
もうすぐ棚田が見えてくるといい所まで差し掛かったが、湖をよく見ると何かが陸に上がって来ている。
「ん? ありゃあ……」
「師匠、あれはなんですか?」
「あれは半魚人の魔物だ」
「へぇ。あれは魚人の一種ではないんですね?」
「ありゃ、中級の魔物だからな。サーヤには丁度いい相手だな」
そう呟きサーヤの顔を見ると顔に似合わず獰猛な笑みを浮かべていた。
この子は戦うことが好きな部類なのだと理解した。マナもそうだった。嬉々として魔物を狩りに行きダンジョンに潜った。
たまたま死ぬ事がなく上へと上り詰めた訳だが。急に消息を絶つとは思っていなかった。
「ししょー! ワタシ、倒しに行きます!」
「おう? 大丈夫か?」
「はい!」
棚田めがけて襲いに来ていた魚人共を倒すようだ。指輪の着いた手を向ける。
「アクアショット!」
放たれた水弾は魚人に向かっていきダメージを与える。効果はいまひとつのようだ。しかし、意識はこちらに向いてしまった。
「サーヤ! 奴らはこっちに来るぞ!」
「はい! 更にいきます!」
サーヤは練る魔力を高めていく。
そして、渾身の魔法を放った。
「アクアカッター!」
射出された水のレーザーは左から右へと横薙ぎに振るわれ、魚人達を真っ二つにした。
それには俺も感心してしまった。なるほど、水にはそんな使い方があるんだなと。数年で魔法の概念も色々と変わってきている。
以前は水の魔法といえば水弾を放つか水を大量に使った波を起こすか。そのような選択しかなかったと思う。
あのようなレーザーで魔物を斬り飛ばすなど考えられなかった。凄い進歩である。
「どうですか?」
「感心したよ。まさかそんな魔法があるなんてな。俺も現役を退いていたから色々と変わっているみたいで驚いたよ」
「えっ!? もしかしてアクアカッターなかったんですか?」
「あぁ。俺が現役の時はな。だから驚いた」
それを聞いたサーヤは機嫌良さそうにルンルンと足を弾ませて街へと向かっていく。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「なんか師匠が知らない魔法をワタシが使ってるって嬉しいなぁと思って!」
「ふっ。そうだな。魔法に関しては俺が教えられることはないかもしれんな……」
近づく街並みを見ながら漠然とそう話す。すると、サーヤは目の前にやって来て心配そうな目で俺を見上げた。
「だからって、ワタシを見捨てないですよね?」
「ん? どういうことだ?」
「教えられることはないからと、ワタシを置き去りにして一人で生きろとか言わないですよね!?」
「はっ。そんなこと言う程落ちぶれちゃあいない。それになぁ。探索者に必要なことは山ほどある。魔法だけじゃない。だから安心しろ」
そう口にすると俺は思わずサーヤの頭を撫でてしまった。
すると、サーヤの顔は真っ赤になりサッと離れてしまった。
「あっ。すまん。思わず娘のように頭を撫でてしまった」
「いえ……いいんです……嫌じゃないし……」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ! 大丈夫です! ははははっ!」
おかしなテンションになったサーヤは視線の先に見えているイグンへと向かっていった。
街は壁で覆われてはいるが、棚田などは対策がされていないようだった。あの半魚人が襲ってきそうだが、棚田は大丈夫なんだろうか。
湖は綺麗な夕日を輝かせてそんな魔物などいないかのような佇まいである。こんなに綺麗な湖に魔物がいるかと思うと複雑な気持ちだ。
「ししょー! 早く行きますよ! 暗くなっちゃう!」
「わかったから。あんまり急ぐと転ぶぞ?」
「そんなヘマしませんよ! はや──」
──ズシャァァァァ
サーヤは顔面から地面にダイブしていった。だから言ったのに。
近づいていくと倒れているサーヤの、横に膝を着いて様子を見る。
「大丈夫か?」
「うー。恥ずかしいです」
「誰も見てないさ。大丈夫だ」
「ししょーが見てました!」
「俺も湖を見ていて転んだところは見なかったぞ?」
「本当ですか?」
「あぁ」
機嫌を直して起き上がったところで顔についている泥を布で拭いてやる。服についた土もはらいながら立ち上がる。
「さぁ、行くか」
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街へ向けてまた二人で歩き出した。
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