3 / 42
3.特級の強さ
しおりを挟む
「じゃあ、行くか。サーヤさんといったかな。得物はそいつかい?」
俺は腰に下げているショートソードを指して問いかけた。
サーヤは首を振って否定する。
「サーヤでいいわ。ワタシ、剣より魔法が得意なの。これは近付かれた時用よ?」
「なるほど。それは失礼。魔法媒体は使わないのかい?」
「ワタシの魔法媒体はこれなの!」
こちらへ手を向けて見せてくるのはコバルトブルーの宝石の付いた指輪だった。
「そりゃ、立派な指輪だ。水の宝玉かな?」
「えぇ。そうよ。水の精霊に好かれているみたいなの!」
「ほぉ。そいつぁ凄い。それは自分で手に入れたのかい?」
「これは……お母さんの形見なの」
少し俯いて悲しそうに目を潤ませた。
「そいつぁ、すまない。嫌なことを思い出させたな」
「ううん。十年前の魔物大発生があったでしょ? あの時に両親は戦って亡くなったの」
「それは、勇敢な両親だったんだな。俺も討伐に参加していたが、多くの人を助けられなかった。未だに悔いているよ」
この街に以前降りてきた時というのが、その十年前の大発生の時だったのだ。その時は悲惨な状態だった。
「サーヤはなぜ冒険者に?」
「ワタシは、沢山の人を救いたいの。もうあの時みたいに逃げるだけは嫌」
そのサーヤの目は決意の籠った強い目をしていた。この子は強くなる。そう確信めいたものを感じて提案した。
「俺はこれから娘のマナを探しに行くんだ。良かったら、旅に同行するか? そうすれば強くなれることは保証する。もちろん、俺の実力は今から見てもらうから、それから決めてもいい」
「ガイルの兄貴! 本気ですかい!?」
「俺はな。後はサーヤ次第だ」
しばらく考え込んでいるようだった。
少しして口を開いた。
「やっぱり、実力を見てからにするわ?」
「あぁ。懸命な判断だな。じゃあ、早速行こう。これと、これを受けよう」
長らく放置されていた特級の依頼用紙を剥がすと受付に持っていく。
「あなたが、あのガイルさんですか。復帰されたんですね。どうか、命を大事に」
「ありがとうよ。それは俺以外に言ってやるんだな。俺は心配ご無用だ」
「それは、失礼しました!」
「いや、いいんだ。じゃあな」
窓口に背を向けギルドを出るとサーヤを伴って西の森へと行くことにした。
街の入口は東にある。街を出て逆方向に行かなければならない。
「こっちは行ったことないわね」
「こっちは上級以上じゃないと入れないんだ」
「へぇぇ」
サーヤの感心をよそに俺は森の中へと進んでいく。目の前には壁が見えてきた。ただ、何かをかざす用のくぼみがある。
底にギルドカードをかざすと重低音を響かせながら壁が横に動いて、俺達の目には鬱蒼と茂る薄暗い森を映していた。
「なんだか不気味ね」
「離れるなよ?」
そう言いながら前へと歩を進めると慌てたようにピッタリと後ろに着いてくるサーヤ。その位の反応の方が安心だ。
少し奥に進む。
──ガァァァァア!
前方から聞こえたのは威嚇するような声。草に身を潜めて様子を伺う。すると、獣の顔に鬣があり四足歩行の獣がいる。しっぽは二本はえて翼もある。
「ひっ! あれは何!?」
サーヤが静かに悲鳴をあげた。
「あれは、キマイラだ。特級だよ。なんでも食うんだ」
「こ、恐い……」
サーヤが震え出した。あの魔物の強さをしっかりと身に感じて居るのだろう。
「その恐さを忘れるなよ? 自分の安全を守るためには必要なことだ」
「う、うん……」
「まぁ、待ってろ」
そう言い放つと草をかき分けて前へと出た。
キマイラは俺を一丁前に睨みつけている。
「ガルルァァァァア!」
「まぁ、そう威嚇するなよ」
腕にある赤と黒の腕輪に魔力を流していく。何時でも怒りの力を使えるように。
「うぅぅ……ガルルルアアア!」
勢いをつけて襲いかかってきた。口を大きく開けて牙を剥き出しにしている。自分が捕食者だと思っているんだろう。
「どっちが上か分からせてやろう」
コンパクトに右拳を脇まで引く。
もう少しで牙が届くという時、右拳を腰の捻りの力を加えて打ち出した。
それと共に赤黒の煙が腕にまとわりつく。
「突鬼《とっき》」
──ズドォォォォォンンッッ
真っ直ぐに打ち出されたエネルギーは、キマイラの口から尻へと巨大な穴を開け、その先の木々も薙ぎ倒した。
「うーん。まぁまぁかな。身体を残さないつもりだったんだが、まだ出力が甘いか。それだけ、今の俺の怒りは少ないということなんだな……」
待たせていたサーヤの元へと戻る。
口を開けて固まっていた。
「おい? どうした?」
「ど、どういう強さなんですか?」
「ふっ。特級ってのはこれ以上の奴らのことを言うんだぞ?」
「なんて……馬鹿げた強さ……」
サーヤは特級の強さを目の当たりにした。これで更に成長できることだろう。この位が日常茶飯事になればいい。
「どうだ? 俺についてくる気になったか?」
「はい! ついて行かせていただきます! ワタシを強くして下さい!」
「そうか。それならよかった。もう一体アースドラゴンを始末して帰ろう」
「ド……ドラゴン……」
サーヤの常識は色々と壊れたようだ。
俺は腰に下げているショートソードを指して問いかけた。
サーヤは首を振って否定する。
「サーヤでいいわ。ワタシ、剣より魔法が得意なの。これは近付かれた時用よ?」
「なるほど。それは失礼。魔法媒体は使わないのかい?」
「ワタシの魔法媒体はこれなの!」
こちらへ手を向けて見せてくるのはコバルトブルーの宝石の付いた指輪だった。
「そりゃ、立派な指輪だ。水の宝玉かな?」
「えぇ。そうよ。水の精霊に好かれているみたいなの!」
「ほぉ。そいつぁ凄い。それは自分で手に入れたのかい?」
「これは……お母さんの形見なの」
少し俯いて悲しそうに目を潤ませた。
「そいつぁ、すまない。嫌なことを思い出させたな」
「ううん。十年前の魔物大発生があったでしょ? あの時に両親は戦って亡くなったの」
「それは、勇敢な両親だったんだな。俺も討伐に参加していたが、多くの人を助けられなかった。未だに悔いているよ」
この街に以前降りてきた時というのが、その十年前の大発生の時だったのだ。その時は悲惨な状態だった。
「サーヤはなぜ冒険者に?」
「ワタシは、沢山の人を救いたいの。もうあの時みたいに逃げるだけは嫌」
そのサーヤの目は決意の籠った強い目をしていた。この子は強くなる。そう確信めいたものを感じて提案した。
「俺はこれから娘のマナを探しに行くんだ。良かったら、旅に同行するか? そうすれば強くなれることは保証する。もちろん、俺の実力は今から見てもらうから、それから決めてもいい」
「ガイルの兄貴! 本気ですかい!?」
「俺はな。後はサーヤ次第だ」
しばらく考え込んでいるようだった。
少しして口を開いた。
「やっぱり、実力を見てからにするわ?」
「あぁ。懸命な判断だな。じゃあ、早速行こう。これと、これを受けよう」
長らく放置されていた特級の依頼用紙を剥がすと受付に持っていく。
「あなたが、あのガイルさんですか。復帰されたんですね。どうか、命を大事に」
「ありがとうよ。それは俺以外に言ってやるんだな。俺は心配ご無用だ」
「それは、失礼しました!」
「いや、いいんだ。じゃあな」
窓口に背を向けギルドを出るとサーヤを伴って西の森へと行くことにした。
街の入口は東にある。街を出て逆方向に行かなければならない。
「こっちは行ったことないわね」
「こっちは上級以上じゃないと入れないんだ」
「へぇぇ」
サーヤの感心をよそに俺は森の中へと進んでいく。目の前には壁が見えてきた。ただ、何かをかざす用のくぼみがある。
底にギルドカードをかざすと重低音を響かせながら壁が横に動いて、俺達の目には鬱蒼と茂る薄暗い森を映していた。
「なんだか不気味ね」
「離れるなよ?」
そう言いながら前へと歩を進めると慌てたようにピッタリと後ろに着いてくるサーヤ。その位の反応の方が安心だ。
少し奥に進む。
──ガァァァァア!
前方から聞こえたのは威嚇するような声。草に身を潜めて様子を伺う。すると、獣の顔に鬣があり四足歩行の獣がいる。しっぽは二本はえて翼もある。
「ひっ! あれは何!?」
サーヤが静かに悲鳴をあげた。
「あれは、キマイラだ。特級だよ。なんでも食うんだ」
「こ、恐い……」
サーヤが震え出した。あの魔物の強さをしっかりと身に感じて居るのだろう。
「その恐さを忘れるなよ? 自分の安全を守るためには必要なことだ」
「う、うん……」
「まぁ、待ってろ」
そう言い放つと草をかき分けて前へと出た。
キマイラは俺を一丁前に睨みつけている。
「ガルルァァァァア!」
「まぁ、そう威嚇するなよ」
腕にある赤と黒の腕輪に魔力を流していく。何時でも怒りの力を使えるように。
「うぅぅ……ガルルルアアア!」
勢いをつけて襲いかかってきた。口を大きく開けて牙を剥き出しにしている。自分が捕食者だと思っているんだろう。
「どっちが上か分からせてやろう」
コンパクトに右拳を脇まで引く。
もう少しで牙が届くという時、右拳を腰の捻りの力を加えて打ち出した。
それと共に赤黒の煙が腕にまとわりつく。
「突鬼《とっき》」
──ズドォォォォォンンッッ
真っ直ぐに打ち出されたエネルギーは、キマイラの口から尻へと巨大な穴を開け、その先の木々も薙ぎ倒した。
「うーん。まぁまぁかな。身体を残さないつもりだったんだが、まだ出力が甘いか。それだけ、今の俺の怒りは少ないということなんだな……」
待たせていたサーヤの元へと戻る。
口を開けて固まっていた。
「おい? どうした?」
「ど、どういう強さなんですか?」
「ふっ。特級ってのはこれ以上の奴らのことを言うんだぞ?」
「なんて……馬鹿げた強さ……」
サーヤは特級の強さを目の当たりにした。これで更に成長できることだろう。この位が日常茶飯事になればいい。
「どうだ? 俺についてくる気になったか?」
「はい! ついて行かせていただきます! ワタシを強くして下さい!」
「そうか。それならよかった。もう一体アースドラゴンを始末して帰ろう」
「ド……ドラゴン……」
サーヤの常識は色々と壊れたようだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―
碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。
騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。
主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる