上 下
26 / 47
第一章 秋田編

26.酒が入ったらこうなるのか

しおりを挟む
「あぁー。美味い。焼酎ってのはチビチビ飲めるからいいよなぁ」

 俺はそんなことを言いながら干し肉を齧っている。干し肉は保存食として持ってきたが、摘みにも丁度いいんだよな。

「自分にも少し貰っていいっすか?」

「あぁ。大丈夫か?」

 少し欲しいという雷斗。
 グラスに少しだけ注いで匂いを嗅いでいる。
 顔をしかめて一口飲む。

「おぉう。酒を飲んでるって感じっすねぇ」

「無理するなよ?」

「はい。でも少し酔いたいんっす。まだ二日目っすけど、緊張感が半端なくて……」

 たしかに外に出るとピリピリとした雰囲気だ。
 いつ魔物が来るかわからないという緊張感がある。
 俺も異世界にいる時経験したが、慣れる。

「ワタクシにも欲しいですわ」

「あぁ。冬華は飲めるんだったな。ほら、グラス」

 グラスを冬華に渡すとそのグラスに焼酎を少し注ぐ。
 芋とアルコールの匂いが周辺に漂ってくる。
 いい香りだと感じてしまう。

 冬華は一口飲むとコクリと頷いた。

「うん。美味しいですわ」

 そこで入り口近くに座っていた千紗が意を決したようにこちらを見ていることに気が付いた。

「千紗、どうした? あっ、干し芋食うか?」

「私も飲みます!」

 立ち上がってそう宣言した。
 そんなに気を張って飲むものでもないんだが。

「無理して飲まなくていいんだぞ? 持ってきた水があるから水で割ったらどうだ?」

「いいです! このまま飲みます!」

 なぜか意地を張って飲むといいだして聞かない千紗。
 まぁ、こういうときはやりたいようにやらせた方がいいだろう。
 一応少しだけグラスに注ぐ。

 匂いを嗅いで顔をしかめている。
 
「いきます!」

「お、おい!」

 静止の声をきかずに注いだ酒を全て飲み干してしまった。

「はははっ! 何やってんすか!? 千紗さん!?」

「あら、意外と飲めるんじゃありませんの?」

 飲み終わった千紗は下を向いている。
 大丈夫なのかと心配していると、ガバッとこちらを向いた。

「これ、クセになるかも!」

 そう言うと焼酎のパックを奪い自分のグラスに注ぎ出した。

「おいおい。大丈夫かぁ?」

「そういえば、予定としてはこのまま秋田を目指すんすか?」

「うーん。千紗の母親が岩手の東北基地にいるらしいから、一回そこに行って休ませて貰おうかなと思っているが」

 そのまま秋田を目指してもいいのだが、皆の消耗具合もあるだろう。なにより精神的に疲れている部分が大きい。基地であれば安心して休めるだろうからな。

「たしかにそれはいいかもしれないっすね」

「だよな? これからみんな消耗すると思うからな。精神的にも肉体的にもな」

「そうっすね。後どれくらいで東北基地に着きますかね?」

 ここまで二日かかっていることを考えるとあと三日くらいかかりそうだがどうだろうか。時間がかかることは覚悟していたが、予想以上に魔物の襲撃が多い。やはり車両が走っていると目立つからだろうな。

「順調に行ってあと三日で着くかどうかじゃないか?」

「ここまで二日っすもんね」

「ねぇ? なぁんで、真面目なぁ話するのぉ?」

 微妙な呂律の千紗が話に割って入ってきた。体も一緒に割って入ってきたが。

「予定の話だ。大事なことだろ?」

「やぁだぁ。いまはぁ。お酒のせぇきぃじゃないですかぁ?」

 頬を赤く染めて心なしかフラフラしている。

「おい! もう酔ってんのか? 座った方がいいぞ?」

「じんしゃんうるさい! だいたいねぇ、真面目な顔しぃすぎぃらんですぅよぉ」

 呂律が回ってない。

(コイツはもう。だからやめろっていったのに、服も乱れてるし。雷斗の目によくないな)

「冬華、千紗にシーツ被せろ。雷斗の目に毒だ」

「わかりましたわ」

 シーツを引っぺがして腕だけだしてドレスの様に着せた。
 うまいもんだな。そんなことができるとは。意外な特技か。

「これでいいのですわ」

「なぁんなのぉ? これはぁ?」

「千紗さん弱いのに飲むからそうなるんですわ。面倒ですわね」

 ────ビシッ

 首筋に手刀をくらわせてベッドに寝かせる。

「だ、大丈夫なのか?」

 俺を一応無事を確認する。

「脈は問題ありませんわ」

 そう言い放つと何事もなかったかのように酒を飲み始めた。

 酔うとこうなるのかは疑問だが、暴力的になっている気がする。

「そういえば、雷斗と冬華はいつから魔法が使えるんだ?」

「自分は中学校ぐらいからっすね。なので、高校は行ってないっす」

 さほど気にしない様子でそう言った。他の友達とかが高校生している中、訓練していたんだな。よくやったもんだ。だからこそ、討伐隊、調査隊に選ばれたんだろう。

「ワタクシは高校三年ですわ。卒業してからジスパーダに入りましたわ」

 遅くに発現しながらも今このメンバーに入っているというのは凄いことだな。優秀なんだろう。

「雷斗はこの調査団に選ばれるだけあって若い頃から頑張っていたんだな。冬華も発言が遅いのにここにいるというのは優秀なんだな。一緒に居て二人とも頼りになるから助かってるよ」

 二人とも少し下を向き、酔っているのか頬を赤くしていた。

「俺はな、このメンバーでよかったと心底思っているんだ。楽しいしな。目的までは危険が伴う。信頼できるってのは大きい。雷斗、冬華も何か困ったことがあったらすぐに言ってくれよ?」

「うっす!」
「わかりましたわ」

 雑談をしながら夜は更けていく。
 次の日、千紗が二日酔いで動けず、出発は一日遅れたのであった。

 土下座して謝っていたので、許してやって欲しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~

みょっつ三世
ファンタジー
――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。  高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。  なにせ異世界にクラス転移した上に真の勇者のみが引き抜けるという聖剣を引き抜いてしまったからだ。どこからどう見ても陰キャなのにだ。おかしいだろ。  普通そういうのは陽キャイケメンの役目じゃないのか。そう考え影人は勇者を辞退しようとするがどうにもそういう雰囲気じゃない。しかもクラスメイト達は不満な視線を向けてくるし、僕らを転移させた王国も何やらキナ臭い。 仕方ないので影人は王国から逃亡を決意することにした。※学園一の美少女付き ん? この聖剣……しゃべるぞ!!※はい。魔剣もしゃべります。

落ちこぼれの無能だと貴族家から追放された俺が、外れスキル【キメラ作成】を極めて英雄になるまで

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
「貴様のような落ちこぼれの無能は必要ない」  神からスキルを授かる『祝福の儀』。ハイリッヒ侯爵家の長男であるクロムが授かったのは、【キメラ作成】のスキルただ一つだけだった。  弟がエキストラスキルの【剣聖】を授かったことで、無能の烙印を捺されたクロムは家から追い出される。  失意の中、偶然立ち寄った村では盗賊に襲われてしまう。  しかし、それをきっかけにクロムは知ることとなった。  外れスキルだと思っていた【キメラ作成】に、規格外の力が秘められていることを。  もう一度強くなると決意したクロムは、【キメラ作成】を使って仲間を生み出していく……のだが。  狼っ娘にドラゴン少女、悪魔メイド、未来兵器少女。出来上がったのはなぜかみんな美少女で──。  これは、落ちこぼれの無能だと蔑まれて追放されたクロムが、頼れる仲間と共に誰もが認める英雄にまで登り詰めるお話。

黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空
ファンタジー
※2021/07/21 続編の連載を別枠としてこちらに移動しました。 ■あらすじ■ 佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡し、異世界に転生を果たす。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。 ――そして、大陸全土を巻き込んだ「世界大戦」の元凶であった悪神・オルクスを死闘の末に打ち倒し、平穏を取り戻した ――はずなのだが……神・ディエヴスの依頼により、ツグナたちは新たな戦いに巻き込まれることとなる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

外れスキル「ハキ」が覚醒したら世界最強になった件 ~パーティを追放されたけど今は楽しくやってます~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
「カイル、無能のお前を追放する!」 「なっ! ギゼル、考え直してくれ! リリサからも何か言ってくれ! 俺とお前は、同じ村で生まれ育って……。5歳の頃には結婚の約束だって……」 「……気持ち悪い男ね。いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら? 『ハキ』スキルなんて、訳の分からない外れスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない」  カイルのスキルが覚醒するのは、これから少し後のことである。

処理中です...