上 下
22 / 47
第一章 秋田編

22.反省と冷静と

しおりを挟む
 近くが羽生インターだった為、そこを降りることにした。

 降りて東に進むとすぐ近くに大きな建物がある。
 そこならば少し休めるかもと思い車を走らせた。
 だが、そこは魔物の蠢く棲み処となっているようだった。

「この辺の地理わかるか!?」

 どこが安全なのかわからないこの状況では休むところを探すのが困難だ。そう思い問いかける。

「自分は、わからないっす。すみません」

「ワタクシもこの辺は来たことがありませんわ」
 
「そうだよな。すまん」

 ちょっと焦ってしまっていたかもしれない。
 焦ったって仕方がない。冷静に分析してこの辺りで潜めそうな所をさがすんだ。

 魔物どもは群れで住みついたりする。そうなると大きい建物の方が占拠されているのだろう。

 まっすぐ走っていると突き当りに当たった。
 右に行くか左に行くか迷ってキョロキョロしていると、正面が神社であることに気が付いた。

「神社なら……」

 中へと入っていく。
 魔物は食糧があるところに住み着いたりすることが多い。
 本堂であれば何もないだろうから、魔物はいないと思った。

 前に車を止める。

「俺は中を見てくる。当たりの警戒を頼む!」

「了解っす! 気を付けてください!」

 少し夕日の傾く中、ゆっくりと本堂を伺う。
 戸を引いて開けると中は空っぽだ。
 魔物が発生してから百年以上経っている。

(そりゃ移動する選択もあるわな。とくに何もいなさそうだな)

 車に戻ると知友ちゆうを運び入れる。そして持ってきた毛布をかけて、太陽光発電のライトを上から吊るして戸を閉めた。

「これで魔物に気付かれることはないだろう。今日の所は休憩しよう」

「はい……。あのっ! 本当にすみませんっす。自分の判断が遅かったばっかりに……」

 そう言って地雷ちらいはうな垂れた。
 俺もそんなことがあったなぁと昔のことを思い出す。

「判断が遅い失敗は俺にも経験がある。異世界にいたころ。若い時だった」

「武藤隊長にも失敗が?」

 少し顔を上げて上目遣いで見てくる。
 その顔はどこか驚いた様子だった。

「そりゃあるさ。あの時は魔物を倒すことが恐くてなぁ。迫りくる魔物相手に殺すのをためらっていたんだ。そしたら、狙われてな。一緒について来た兵士が庇って傷を負った」

「その兵士は?」

「重症だった。一命は取り留めた。その時の殺すという判断が遅かったから、ためらったから起きたことだった。後悔したんだ。そして魔物に対しては二度とためらわないと決めた」

 地雷は胸をなでおろしたようだった。

「魔法はタイミングが難しいと思う。あぁいった素早い魔物には面で当てる方が避けられない」

「なるほど」

 頷きながら俺の言葉を呑み込んでいるようだ。

「ワタクシも当たらなくてご迷惑をかけましたわ」

「いや、あの場面でよく掠らせた。あれで少しスピードが鈍ったと思う。よくやったさ」

 円鬼も落ち込んでいるようだ。少し慰めたが、下を向いたまま指をイジイジしている。
 まぁ、わかってはいる。
 そんな慰めは意味がないという事を。実績は結果が全てだ。よくやったと言われても、仕留められないなら意味がないのだ。

「暗くなってしまうな。飯を食おう。保存食だが」

 干し肉と干し芋を出して齧りながら水分も補給する。

「知友さんは大丈夫っすかね?」

 知友を見ると寝息をたてている。
 恐らく体力を回復するまでは眠り続けるだろう。

「俺もこの状態になったことがあってな」
 
「そうなんすか!?」

「あぁ。その時は半日くらい寝ていたらしい。目を覚ませば元に戻るから大丈夫だと思うがな」

「ならよかったっす」

 地雷は肉を齧りながら少し顔を綻ばせる。少し安心したようだ。

「隊長は落ち着いておりますわね?」

 円鬼は俺に実戦経験がないのにと不思議に思ったのだろう。

「話しただろう? 異世界に居た時の経験があるからな。しかし、さっきのどこか休める所がないか探しているときは焦ってしまったよ」

「ふふふっ。たしかに焦ってましたわね。誰も地理をしるわけがないですのに」

「はははっ。そうだよな。」

 知友は岩手出身、地雷は千葉、俺と円鬼は東京なので埼玉のこの辺の地理は詳しくなかったのだ。

 それでもあの時口に出してしまったのは、誰かが知っていればとダメもとでの問いだった。

「自分は近くまでは来たことあったんすけど、この辺りは知らなくて……」

「いや、いいんだ。俺が冷静じゃなかった。実戦で大事なのは冷静にいることだと思っている。冷静に物事を見極めるんだ。そうすれば必ず突破口はある。諦めたら、それは死を意味する」

 二人の目を見て、俺が今まで培っていた一人生分の人生で得た教訓をこの二人にも伝わるように心で目で訴える。

「「はい!」」

「また説教臭くなったな。すまん。そんなに歳が離れているわけではないのには」

 そう言って頭をかいていると地雷が口を開いた。

「武藤隊長、依然とやっぱり雰囲気変わったっすよ」

「そうか?」

「はい。なんか存在の重厚感が増したというか。歳を重ねた感があるっす!」

「そうか。記憶が甦ったことでじぃさんになったのかもな。体は大人、頭脳はじぃさんってな」

「はははっ! どっかのアニメキャラみたいっすね!」

 そんな冗談を話しながら、一夜を明かしたのであった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~

みょっつ三世
ファンタジー
――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。  高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。  なにせ異世界にクラス転移した上に真の勇者のみが引き抜けるという聖剣を引き抜いてしまったからだ。どこからどう見ても陰キャなのにだ。おかしいだろ。  普通そういうのは陽キャイケメンの役目じゃないのか。そう考え影人は勇者を辞退しようとするがどうにもそういう雰囲気じゃない。しかもクラスメイト達は不満な視線を向けてくるし、僕らを転移させた王国も何やらキナ臭い。 仕方ないので影人は王国から逃亡を決意することにした。※学園一の美少女付き ん? この聖剣……しゃべるぞ!!※はい。魔剣もしゃべります。

落ちこぼれの無能だと貴族家から追放された俺が、外れスキル【キメラ作成】を極めて英雄になるまで

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
「貴様のような落ちこぼれの無能は必要ない」  神からスキルを授かる『祝福の儀』。ハイリッヒ侯爵家の長男であるクロムが授かったのは、【キメラ作成】のスキルただ一つだけだった。  弟がエキストラスキルの【剣聖】を授かったことで、無能の烙印を捺されたクロムは家から追い出される。  失意の中、偶然立ち寄った村では盗賊に襲われてしまう。  しかし、それをきっかけにクロムは知ることとなった。  外れスキルだと思っていた【キメラ作成】に、規格外の力が秘められていることを。  もう一度強くなると決意したクロムは、【キメラ作成】を使って仲間を生み出していく……のだが。  狼っ娘にドラゴン少女、悪魔メイド、未来兵器少女。出来上がったのはなぜかみんな美少女で──。  これは、落ちこぼれの無能だと蔑まれて追放されたクロムが、頼れる仲間と共に誰もが認める英雄にまで登り詰めるお話。

黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空
ファンタジー
※2021/07/21 続編の連載を別枠としてこちらに移動しました。 ■あらすじ■ 佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡し、異世界に転生を果たす。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。 ――そして、大陸全土を巻き込んだ「世界大戦」の元凶であった悪神・オルクスを死闘の末に打ち倒し、平穏を取り戻した ――はずなのだが……神・ディエヴスの依頼により、ツグナたちは新たな戦いに巻き込まれることとなる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

外れスキル「ハキ」が覚醒したら世界最強になった件 ~パーティを追放されたけど今は楽しくやってます~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
「カイル、無能のお前を追放する!」 「なっ! ギゼル、考え直してくれ! リリサからも何か言ってくれ! 俺とお前は、同じ村で生まれ育って……。5歳の頃には結婚の約束だって……」 「……気持ち悪い男ね。いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら? 『ハキ』スキルなんて、訳の分からない外れスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない」  カイルのスキルが覚醒するのは、これから少し後のことである。

処理中です...