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執務室で、アリオスは側近のラーズを呼んだ。


「ラーズ、頼みたいことがある。」


ラーズだけを別室に入れ、話を切り出した。


「レイチェルの国に行って、元婚約者に話を聞いてきてほしいことがある。」

「……随分と今更ですね。何かありましたか?」

「私とレイチェルの結婚に、『苦労』したところはあったと思うか?」

「いいえ?いつの間にか側にいるのが当たり前になって問題なく婚約したかと。
 でも、婚約者候補として留学したわけではなかったですよね。
 あまりのスムーズさに、仕組まれていたのかと微妙に思いましたけど。」

「そうだ。お前だけ微妙な顔をしていたのを覚えている。
 だから頼みたいんだ。
 レイチェルは、私と結婚するために『どれだけ苦労したか』と口走った。
 私たちが学園で出会う前に苦労することといえば、彼女の婚約破棄だ。
 元婚約者の浮気だと聞いた。それが事実か知りたい。
 それと……これは極秘だが、レイチェルは純潔ではなかった。」

「………は?王族に嫁ぐのに?それを隠していたってことですか?それとも知った上で?」

「隠していた。初夜で発覚した。
 元婚約者に一度だけ、無理やり抱かれたと涙ながらに言われた。
 父親の国王に言うこともできず、いずれ結婚するからと自分を納得させていたらしい。
 だが、相手の浮気が発覚して婚約破棄となった。だからなかったことにしたかった、と。」

「その言い訳を信じてしまったということですね。
 知りたいのは元婚約者が確かに初めての相手かどうかですか?」

「それと、回数だ。本当に一度だけなのか。
 側妃を抱いて、純潔の者の反応を知った。人にもよるとはわかっているが。
 そして昨日、久しぶりに抱いた側妃の体の具合から考えるとレイチェルは嘘をついている。
 レイチェルは一度だけと言った割に、中の開き具合が慣れていたと思うんだ。
 前回、側妃を抱いた時にもレイチェルが初夜で言ったことは嘘かもしれないと感じていた。」

「あー。比較対象となれる側妃様のおかげで発覚ですか。
 案外、側妃を嫌がっていたのもバレると思ったからかもしれないですね。」


………そうか。そういう考え方もあるな。


「王太子妃様が元婚約者、あるいは別の男性と奔放な関係があったかどうかですね。
 となると、婚約破棄はどうしてですかね?」

「……レイチェルとは、彼女の婚約破棄の少し前に外交で挨拶をしたことがある。」

「つまり、そこであなたに惚れた?
 で、婚約者が邪魔になった。取引か策略かで婚約破棄にした。
 ということはあなたの婚約者だったドレディア様は………」


ドレディアの事件は公にはなっていない。拉致から凌辱現場まで少数精鋭で捜索した。
そして発見後、捜索にあたった者には箝口令を敷いた。
病気を患ったことで婚約を解消して静養していることになっている。


「もし、本当にレイチェルが私との結婚を学園に留学する前から狙っていたのだとしたら……
 私の婚約者が邪魔だったのは確かだ。
 ドレディアがいるのにレイチェルに靡くことはなかっただろう。
 婚約者がいるのに婚約を打診されたら、理由を疑ってレイチェルの素行調査をしたはずだ。
 狙いは何なのか、問題のある王女なのか、とね。」

「学園にいる時の妃殿下は、完璧な王女様でしたからね。
 王族というアドバンテージを最大限に利用して、他の令嬢は近づけなかった。」

「……そうだったか?」

「ええ。なので、正式に婚約する前から婚約者になるから牽制しているのだと言われていましたよ。」

「目の前にいるレイチェルを信用し過ぎて調査しなかったのが間違いだったな。
 それに王女だからと純潔検査をしなかったことも。
 それを許してしまった私も。」

「どこまで調べられるかはわかりませんが、確認してきます。」

「頼んだ。」


まだ憶測ばかりだ。だが、レイチェルを信じたいという思いより疑いを確実に持っている。 

愛に温度があるとすれば、常温くらいだろうか。
再び熱くなるか、もっと冷たくなるかは事実を知ってからわかるだろう。

 



 
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