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しおりを挟むフリードを出産後、初めて月のものがきた直後、再び妊娠のためにアリオスと閨を共にすることを侍女から伝えられたシェリーナは、本当に自分は子供を産むためだけに側妃になったのだと笑った。
二人でも三人でも望まれる限り産む気ではいる。
国王陛下やアリオスが『真実』をいつ知るかはわからない。
このまま知らないままなのかもしれない。
もしそうなら、国王陛下には退位する時に真実を話すつもりでいる。
アリオスには……いつがいいのかしらね?
王太子妃レイチェルへの愛が深ければ深いほど、アリオスは苦しむだろう。
過去のことだと再びレイチェルの手を取るか、許されないと離縁し国に返すか。
アリオスはどちらを選ぶ?
シェリーナが側妃になった目的は2つ。
国王陛下とアリオスに『真実』を告げるためと自分の子を跡継ぎにするため。
それが果たされれば役目は終わり。
つまり、既に跡継ぎのフリードを出産したため、真実を告げれば現時点で目的は達成される。
すぐに真実を告げなかったのは、もちろん子供を産んでからでないと自分が追い出されたら困るからということと、アリオスが思ったよりもレイチェル依存ではなかったため。
妊娠が判明してからのアリオスは人間味のある一人の男だった。
子が産まれるまで会いに来ることはないと思い込んでいたのに毎週のようにやってきてシェリーナのお腹に触れ、フリードが産まれてからは週に二度か三度は会いに来る。
国よりもレイチェル優先だと思っていたアリオスは、王太子として次期国王としても執務に意欲的になったと聞く。
周りは、子ができてようやく自分の立場を自覚し始めたと安堵したとか。
それは、父たちや私にとっても喜ばしいことではある。
『真実』を知って、ショックで王太子の職務を放棄されては困るのだから。
王太子だからといって順風満帆で国王になれるものではない。
それをようやく理解し始めたのだと思った。
王宮の侍女の情報によると、アリオスが再びシェリーナのもとに通うと聞いたレイチェルは、廊下に声が響くほど罵声を浴びせたとか。
アリオスとレイチェルの仲は、シェリーナという側妃が現れたことによって少しずつ壊れているのかもしれない。
シェリーナのところに通っていたのも執務に意欲的になったのも、それが理由かも。
以前のアリオスのままならば、自分がレイチェルに代わって王太子妃や王妃になるのは億劫だったけど、今のアリオスとなら上手くいくかもしれない。
真実を知ったアリオスが潔くレイチェルと離縁することを選べば、王太子妃にる覚悟はある。
レイチェルを許すというならば、側妃として過ごしレイチェルは見張る。
………レイチェルはいつか、私か子供に手を出してくると思うから。
そうなったら、アリオスのそばにはいられなくなるとレイチェルはわかっていないと思う。
以前のように手を貸してくれる者はこの国にはいないのだから自分でするしかないの。
誰かに頼む?そうすれば、あなたは終わりね。
レイチェルの周りの侍女はこっちの味方だから。
アリオスが許しても、私は許す気はないの。
その地位はあなたに相応しくないわ。
いつか、必ず追い込むから。
「シェリーナ様、王太子殿下が来られました。」
「わかったわ。お通しして。」
さあ、お仕事の時間だわ。
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