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しおりを挟むフリード誕生から半年後、父である国王陛下に言われた。
「アリオス、シェリーナとも閨を共にしろ。二人目ができるに越したことはない。」
「……二人目ですか。そう、ですね。フリードに弟妹ができるのはいいですね。」
アリオスはソノ気になった。
二人目どころか、三人目も望めるのではないか。シェリーナは産んでくれるだろう。
シェリーナの侍女に伝え、妊娠しやすい5日間に再び通うことになった。
「今日から5日間、シェリーナのところに通う。その間は前と同じく会わない。」
そうレイチェルに告げた。
すると、レイチェルはアリオスが今までに見たことがないような顔をして罵声を浴びせた。
「この浮気者!子供は一人で十分でしょ?
私に飽きたの?あの女を抱きたいんでしょ?若い体に絆された?
王妃の座もあの女にするつもり?私の国が許さないわよ!」
「……レイチェル、君は何人兄弟だ?4人だろう?私は2人だ。姉は嫁いだ。
言い方は悪いが、スペアは必要なんだ。
私が君と離縁すると言ったか?正妃はレイチェルだ。王妃になるのもレイチェルだ。
それに……君の国はもうここだ。隣国をいつまでも自分の国だと言わないでほしい。」
「そんな言葉に騙されないわよ。
あなたはあの女を抱きたいだけよ。
私があなたと結婚するために、どれだけ苦労したと思ってるの?
私以外の女に夢中になるのは許さないわ。」
「……夢中になってないよ。現に最初の5日間以外には彼女を抱いていない。
彼女に誘いかけられたこともない。
子を産ませるために側妃を迎えたんだ。
またその仕事を彼女にしてもらうだけだ。
子作りは王太子である私の責務だ。君も納得してくれただろう?」
5日間離れていると冷静になれるだろう。そう言い残し、レイチェルの前から去った。
正直言って驚いた。
子供ができずに月のものが始まる度、泣く姿をよく慰めはした。
王太子妃としては申し分ない彼女を守ってやりたくて、側妃の話が出てから3年以上も彼女が側妃に納得してくれるまで待った。
しかも、王族と結婚したというのにここまで覚悟していないとは思わなかった。
私を浮気者と言い、シェリーナを『あの女』と吐き捨てるように言い、王妃の座とアリオスへの執着。
何もかもが意外だった。
シェリーナのことを、『自分のかわりに子供を産む妃』と割り切ったと言っていたのに。
一番驚いたのは、豹変したあの顔だったが………
愛に温度があるとすれば、また少し冷めてしまった気がする。
それ以上に気になる言葉があった。
レイチェルがアリオスと結婚するために『苦労』したと言ったこと。
アリオスとしては、苦労などなくスムーズに、なるべくしてなったと思った。
前の婚約が解消となり、同じように婚約がダメになったレイチェルが留学してきた。
お互いの国王は関与していないと思っていたが、そうではなかったのか?
自然と仲良くなったわけではなく、レイチェルには最初から婚約者になる思惑があって近づいていたというのか?
確かに、婚約者のいない王太子と王女だった。
留学にそういう意図があるのであれば、父から前もって何か言われても良かったのに、婚約を勧められたのはしばらく経ってからだった。
しかし、思惑があったにせよ『苦労』したというのが分からない。
特に、誰からも反対があったとは記憶していない。
何かを見落としているのか、忘れているのか。そんな違和感を感じるようになった。
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