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しおりを挟む訪れる度に、シェリーナのお腹の変化をさりげなく見る。
初めの数か月は見た目ではわからなかった。
しかし、楽なワンピースの格好のシェリーナのお腹をジッと見てしまった。
「触ってみられますか?」
「……いいのか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ。」
アリオスはシェリーナが座っているソファの隣に行き、シェリーナの下腹部に手を伸ばした。
少し躊躇したその手をシェリーナは優しく包んで下腹部に誘導した。
触れ合ったのはあの5日間以来だった。
温かく優しい手。ドキッとした。
手のひらをシェリーナに導かれて動かしてみる。
明らかに少し膨らんでいた。
まだ小さな小さな我が子。
実感した。感動した。涙が出そうだった。
「ありがとう。」
そう言って、シェリーナを見ると和むような笑顔を見せてくれた。
思わず、シェリーナの唇にキスをした。
自分の行動に驚いたが、シェリーナの照れた顔はとても可愛かった。
侍女もいるのに自分は何をしているのかとも思ったが、自分の側妃なので問題ないと気づいた。
王太子妃であるレイチェルとは侍女の前でキスなどしたことがないことには気づかなかった。
それからは毎週、お腹を触らせてもらった。
やがて、子が動くのを手に感じ、驚き、嬉しくなる。
丸く突き出てくると、両手で撫で、頬や耳を当ててみたりもした。
シェリーナがお腹に向かって語り掛けるのを見て、自分も語り掛けてみたりもした。
いつの間にか、帰り際にシェリーナに軽くキスをする習慣もできてしまっていた。
性的なものではない。
挨拶みたいな、軽いキスだ。
なのに、それに幸せそうに微笑んでくれるシェリーナが可愛いからやめられなかった。
レイチェルを愛している気持ちは変わらない。
だが、シェリーナのそばは居心地が良く、疲れを癒してくれている気がするのだ。
王太子ではなくアリオスという男でいられる、楽になれる場所だった。
シェリーナとの会話も他愛もないことばかりだ。
政治的なことも社交界のことも何もない。
好きな食べ物や好きな作家など、個人的なことばかり。
レイチェルの話もお互いにしたことがなかった。
ここに来ていることはレイチェルには言っていない。
シェリーナのことは聞かれたこともない。
妊娠したと伝えただけだ。
おそらく、週に一度、通っていることは耳に入っているだろう。
だが、お互い何も言わない。言い訳する必要もない。
レイチェルとの時間は何も変わっていないのだから。
やがて産み月になりシェリーナは男の子を産んだ。
王太子に男子誕生、と国中に祝福された。
フリードと名付けられた息子は、しばらくはシェリーナと共に暮らす。
アリオスは、シェリーナとフリードに会うため、週に二度、通い始めた。
息子の成長を楽しみ、帰り際にシェリーナにキスをする習慣も変わらなかった。
そんな王太子と側妃の仲は、傍目から見ても悪くは思えない。
侍女たちのそんな報告に、国王陛下及び大臣たちはそろそろ二人目を作ることを望んだ。
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