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しおりを挟む数日後、休みの日にネリリが侯爵家にいきなりやってきた。
君には手紙や先触れといった常識はないのか?
「ミカルディス様、お会いしたかった。」
抱きついてきそうなネリリをソファに座らせた。
「君はマーリアのところに押しかけたそうだね?」
「ええ。妊娠してるかもしれないから、早く教えてあげたくて。」
「そう。避妊薬を飲まなかったんだね。」
「だって、ミカルディス様の子供がいるかもしれないと思ったら飲めなくて……」
白々しいね。計画的だったんだろ?
「そうか。でもね、マーリアのところに行っても関係ないよ?
彼女との婚約はその前には解消されていたからね。」
そういうことになってるんだ。
「え?じゃあ、ミカルディス様の婚約者は?」
「今はいないよ?誰か探すつもりだったんだけど……」
「じゃあ、じゃあ、私と結婚してくれますよね?赤ちゃんがここに……」
腹に手を当てても、まだいるかわからないよな?
「私は誘ってきた君が純潔だとは思ってなかった。経験があって誘ったんだと思ったよ。
だから婚約者もいないし、遊んでもいいかと思って。
それに、避妊薬を飲むと言ったから、中にも出した。これは嘘をつかれたけどね。」
「あの時は、飲むつもりだったんです。嘘をつくつもりじゃなかったの。」
「うん。どの道、純潔を奪ったのは確かだ。
それに、秘密と言ってたのに君が秘密にする気がないのもわかった。
だから、責任を取って君と結婚するよ。」
「本当に?嬉しい。赤ちゃんがいるかもしれないし、早く結婚してここに住みたい。」
ここに住みたい。か。
「とりあえず入籍を先にしよう。
住むところはここじゃないよ。王城に通いやすい官吏たちの区域に住むつもりだ。」
「え?で、でも……侯爵家のお仕事は?跡継ぎだとここの方が便利なんじゃ……」
「私は跡継ぎじゃないよ?弟が跡継ぎだ。」
さあ、何て答えるかな?
「嘘!マーリア様が婚約者だったんだから、あなたが跡継ぎだったんじゃ……」
「そうだね。その時はね。
でも、君がマーリアのところで私と結婚すると言ったから跡継ぎが弟になった。」
「な、なんで?」
「弟の婚約者は侯爵令嬢なんだ。子爵令嬢の君よりここに相応しいから。」
「私でも侯爵夫人になれるわ!」
「無理だね。だって、マーリアのところやうちにも、いきなり押しかける令嬢なんだから。
高位貴族は礼儀に厳しい。
婚約解消を直接言いに行くなんて。しかも、君は不貞をしたと言いに行ったことになる。
婚約者がいると知っていて抱かれましたって常識外れの行動だ。」
「でも、婚約は解消してたって…」
「それは結果論だろ?君が押しかけた時は婚約していると思っていたんだから。」
唇を噛んで黙り込むネリリを見て、侯爵夫人狙いだった。と、わかってはいたが落胆した。
「王城勤務の給金で暮らしていく。
贅沢をしなければ腹にいるかもしれない子と3人でも十分生活はできる。」
「そんな…」
「入籍はすぐにする?それとも子供がいると確実にわかってから?」
「あ、あの…ちょっと考えさせて?」
「いいけど、結婚したくて避妊薬を飲まなかったんじゃないの?」
結婚したいというより侯爵夫人になりたかったんだもんな。
「そうなんだけど、王城勤務だけだなんて思わなくて、不安で…」
優雅に暮らせると思っていたから?
「妊娠していても、していなくても一度結婚を断れば純潔の責任は取らない。
ただでさえ、あれから何日も経っていて妊娠していても私の子であるとは限らないし。」
「ひどいわ!」
「君がそれを言うか?君の行動のせいで私は跡継ぎからおりた。
単なる遊びで終わっていたら、伯爵令嬢辺りを娶って侯爵位を継げたんだ。」
ネリリの顔色が悪くなった。俺の怒りを理解したのだろう。
伯爵令嬢云々は思い付きで発した言葉だったが、あり得た話だった。
「私と結婚しなかったら跡継ぎに戻る?」
「それはない。先方にまで話が言っている。一度決めたことは変えられない。」
ひと月以内には答えを出す。そう言って、ネリリは帰った。
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