婚約者を裏切らせた責任を取ってもらいます。

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
14 / 16

14.

しおりを挟む
 
 
数日後、休みの日にネリリが侯爵家にいきなりやってきた。

君には手紙や先触れといった常識はないのか?



「ミカルディス様、お会いしたかった。」

抱きついてきそうなネリリをソファに座らせた。

「君はマーリアのところに押しかけたそうだね?」

「ええ。妊娠してるかもしれないから、早く教えてあげたくて。」

「そう。避妊薬を飲まなかったんだね。」

「だって、ミカルディス様の子供がいるかもしれないと思ったら飲めなくて……」

白々しいね。計画的だったんだろ?

「そうか。でもね、マーリアのところに行っても関係ないよ?
 彼女との婚約はその前には解消されていたからね。」

そういうことになってるんだ。

「え?じゃあ、ミカルディス様の婚約者は?」

「今はいないよ?誰か探すつもりだったんだけど……」

「じゃあ、じゃあ、私と結婚してくれますよね?赤ちゃんがここに……」

腹に手を当てても、まだいるかわからないよな?
 
「私は誘ってきた君が純潔だとは思ってなかった。経験があって誘ったんだと思ったよ。
 だから婚約者もいないし、遊んでもいいかと思って。
 それに、避妊薬を飲むと言ったから、中にも出した。これは嘘をつかれたけどね。」

「あの時は、飲むつもりだったんです。嘘をつくつもりじゃなかったの。」

「うん。どの道、純潔を奪ったのは確かだ。
 それに、秘密と言ってたのに君が秘密にする気がないのもわかった。
 だから、責任を取って君と結婚するよ。」

「本当に?嬉しい。赤ちゃんがいるかもしれないし、早く結婚してここに住みたい。」

ここに住みたい。か。

「とりあえず入籍を先にしよう。
 住むところはここじゃないよ。王城に通いやすい官吏たちの区域に住むつもりだ。」

「え?で、でも……侯爵家のお仕事は?跡継ぎだとここの方が便利なんじゃ……」

「私は跡継ぎじゃないよ?弟が跡継ぎだ。」

さあ、何て答えるかな?

「嘘!マーリア様が婚約者だったんだから、あなたが跡継ぎだったんじゃ……」

「そうだね。その時はね。
 でも、君がマーリアのところで私と結婚すると言ったから跡継ぎが弟になった。」

「な、なんで?」

「弟の婚約者は侯爵令嬢なんだ。子爵令嬢の君よりここに相応しいから。」

「私でも侯爵夫人になれるわ!」

「無理だね。だって、マーリアのところやうちにも、いきなり押しかける令嬢なんだから。
 高位貴族は礼儀に厳しい。
 婚約解消を直接言いに行くなんて。しかも、君は不貞をしたと言いに行ったことになる。
 婚約者がいると知っていて抱かれましたって常識外れの行動だ。」

「でも、婚約は解消してたって…」

「それは結果論だろ?君が押しかけた時は婚約していると思っていたんだから。」

唇を噛んで黙り込むネリリを見て、侯爵夫人狙いだった。と、わかってはいたが落胆した。

「王城勤務の給金で暮らしていく。
 贅沢をしなければ腹にいるかもしれない子と3人でも十分生活はできる。」

「そんな…」

「入籍はすぐにする?それとも子供がいると確実にわかってから?」

「あ、あの…ちょっと考えさせて?」

「いいけど、結婚したくて避妊薬を飲まなかったんじゃないの?」

結婚したいというより侯爵夫人になりたかったんだもんな。

「そうなんだけど、王城勤務だけだなんて思わなくて、不安で…」

優雅に暮らせると思っていたから?

「妊娠していても、していなくても一度結婚を断れば純潔の責任は取らない。
 ただでさえ、あれから何日も経っていて妊娠していても私の子であるとは限らないし。」

「ひどいわ!」

「君がそれを言うか?君の行動のせいで私は跡継ぎからおりた。
 単なる遊びで終わっていたら、伯爵令嬢辺りを娶って侯爵位を継げたんだ。」

ネリリの顔色が悪くなった。俺の怒りを理解したのだろう。
伯爵令嬢云々は思い付きで発した言葉だったが、あり得た話だった。
 
「私と結婚しなかったら跡継ぎに戻る?」

「それはない。先方にまで話が言っている。一度決めたことは変えられない。」


ひと月以内には答えを出す。そう言って、ネリリは帰った。  
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

処理中です...