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しおりを挟むアリーズは、父の意味不明な愛情の示し方が理解不能だと思った。
そんなアリーズをスレイバー様は笑いながら、再び言った。
「だから、アリーズが離婚しても、俺と再婚すると言っても、子爵は怒らないと思うぞ?
むしろ、今、モリス男爵と結婚しているという現実のアリーズを子爵が受け入れられていない分、あっちは忘れたままでこっちを許す可能性の方が高い。」
それは……確かにそうかも。モリス男爵との結婚は父の記憶に残らないから。
「スレイバー様は私のことを妹のように見ているのではないの?」
「そりゃ、俺が働き始めた頃はアリーズはまだ小さかったからなぁ。対象外だったよ。
だけど、今は19歳だろ?歳は離れているけど14歳くらい何の問題もないんじゃないか?
爵位はないから贅沢な貴族生活は無理だけど、社交界に出たいわけでもないんだろう?」
「それは、そうだけど。」
ということは、結婚したら夫婦生活もあるってこと?
「何が不安だ?何が心配だ?なんでも答えてやるから吐き出してみろ。」
言っていいのかな。聞きたくないと思うけど、言っておかないと後で困るよね?
「私ね、モリス男爵にデッカード侯爵様の愛人と思われたままだったの。
男爵は侯爵様にいろいろと不満というか、鬱憤があったのかわからないけれど、侯爵様の愛人をやっていた女を丁寧に抱けないって、その、初夜にひどくつらい目にあったの。医師にも強姦されたみたいだって言われたわ。」
「つらかったな。だからか?男爵に愛人を許したのは。」
「そう。レベッカとは私との結婚前に関係を持ったことがあったようだから、ちょうどいいと思ったの。
彼に妻か愛人かを迫って、愛人を選ぶように仕向けたの。」
「しかも愛人にしてやられた男爵は、孕ませてしまったということか。愚かだな。」
レベッカは、ちょっと、いや、かなりの問題行動をしていると思う。
妊娠で驚いてしまったが、彼女の嘘は前妻ミリアム様に対して黒に近いグレーの悪意あるものであったと思われるのだから。
「アリーズ、そんな暴力的な初夜のことなんか忘れてしまえ。……ひょっとして怖いのか?」
「多分、怖いのだと思うの。だから、私と結婚しても夫婦になれないっていうか、……」
邪魔な荷物と暮らすようなもの。そこまで自分を卑下した言葉を使いたくはないけれど。
「よし!今から寝室に行くぞ。」
「え……?」
「閨事の気持ちよさを教えてやる。」
「え、ちょっと待って。何言ってるの?私、まだ結婚してるし。」
「いいじゃないか。向こうにも愛人がいるんだから。それに、最後まではしない。
男爵と離婚して俺と最後まで交わりたいと思うくらい気持ちよくしてやる。お前はされるがままになっていたらいいだけだ。」
「え……本気?」
いけないことだと思っているのに、手を振りほどけなかった。
どこか、期待している自分がいたから。
寝室についてからはわけがわからないほど翻弄され、快感責めにされた。
スレイバー様が触れていない部分はどこにもないのではないかと思った。
交わってはいないけれど、これが正しい?閨事のあり方だとすれば、確かに初夜でのことは暴力でしかない。
そう思わされた。
『俺を選ぶだろう?』『俺が欲しいだろう?』
そう言われて、何度もスレイバー様に頷いた覚えがある。
最後、ダメ押しのように聞かれた。
「離婚、するよな?」
「……します。」
「いい子だ。離婚の慰謝料ももぎ取って来いよ?正当な権利だからな。」
忘れていた。
アリーズはモリス男爵よりも格上の子爵家から嫁いだ。
その場合、庶子を作った男爵と離婚する権利と通常の倍の慰謝料を確実に受け取ることができるのだ。
そのお金さえあれば、実家に戻らなくてもある程度は暮らしていけると思っていたのに、そんなことすら忘れていただなんて。
ようやく頭の整理を終えた気がした。
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