上 下
28 / 42

28.

しおりを挟む
 
 
モリス男爵は、レベッカの行動監視のために半月ほど現状と変わらず過ごすと言った。

アリーズと食事を共にしたいという伝言をレベッカに頼み、どう返事が返ってくるか。
アリーズが言ってもいないモリス男爵の悪口や、結婚に対する不満をどう伝えてくるか。
ウォルターが執務室から出て行く姿をどこから見ているのか。
アリーズの侍女をしていないときには何をしているのか。 

それを確認してから、レベッカが嘘をついた理由を問い詰めるつもりらしい。

アリーズもそれを受け入れた。 




半月後、モリス男爵とウォルター、そしてアリーズは、いよいよレベッカを問い詰めることにした。


「レベッカ、お前は妻の専属侍女だよな?」

「はい。そうです。」

「妻はお前からの伝言を聞いていないようだが?俺は食事に誘ったはずだ。」
 
「それが……奥様はいつもお部屋にいらっしゃらなくて。旦那様に会いたくないとおっしゃっておられましたので、お食事もお断りになるはずだと思い、代弁しておりました。」


確かに『会いたくないなぁ』と口にしたことはあるけれど、一人で部屋にいるときだったわよ?
どこかで聞いてた?それとも適当に言ったことが当たってただけかな。


「伝言できなかったのであれば、そう報告すればいいだろう?勝手に代弁するのは不敬なことだ。」

「申し訳ございません。以後、気をつけます。」


代弁、ね。侍女としてあり得ないわ。


「そもそも、お前を妻の専属侍女から外したのに、なぜ続けているんだ?」

「旦那様が私をそばに置いて下さるということは、奥様の役割を一部肩代わりしているのと同じことです。ですので、旦那様のお気持ちを奥様にお伝えしやすい専属侍女という立場でいなければ意味がありません。」


だから、侍女を外れなかったのは男爵の指示だと?
まさか、男爵がレベッカに愛を囁けば、それを報告する気でいたんじゃない?


「その割には専属侍女として失格なんじゃないか?居場所を把握できていないなんて。」

「あまり無粋なことをしてはいけないかと思いまして。どなたか心に思う方との逢引き?なんて可能性もあるでしょうし。あの方のように。」


前妻ミリアム様のことを指しているのだろう。


「それで?無粋だから探しもしていなかったと?ミリアムの時は俺に告げ口したじゃないか。」

「ええ。ですので、奥様がミリアム様の二の舞にならないように、探さないことにしたのです。」
 

ほんと、よく回る口ね。言い訳を全部考えた上でのことなのね。


「執務室の近くに勝手に自分の部屋を作ったな。」

「旦那様をお世話する役目として屋敷内に部屋をいただくのは当然のことです。執務の邪魔にならないように、ウォルターさんが席を外した時に息抜きを兼ねてお話に伺ったりするのに、あの場所はとてもいいのです。
それに、旦那様の夜のお世話で寝不足にもなりますので、ちょっと仮眠もできますし。」

「……なら、侍女を辞めたらよかったじゃないか。手当が欲しかったのか?」

「お金の問題ではありません。侍女は楽しんでやっていますから。」


楽しんで、ね。それすら、嘘くさい。


「お前はリズベスにも部屋から出たら俺が怒ると何度も言ったな?」

「はい。旦那様がそうおっしゃっていましたから。」

「ずっと部屋から出るなという意味ではないことくらいわかるだろう?引きこもりはお前の言葉にも原因があったんだ。」

「まあ!そうでしたか。それは申し訳ないことをいたしました。」

 
イライラと呆れが交互にくる感じで疲れてくるわ。


「お前はアリーズの言葉を代弁したように、ミリアムの言葉も代弁して俺に伝えていたのか?」
 
「さあ?どうだったでしょうか。記憶にありません。」


ミリアム様のことについては、何の証拠もないから決めつけることもできない。


「……もういい。とにかくお前は侍女として失格だ。俺との関係も終わりにする。出て行け。」


甘い判断。だけど、仕方がない。

ミリアム様のことは証拠がないし、私たちに嘘をついたことも罪に問うほどのものではないから、紹介状のない解雇が妥当なところなのだ。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

処理中です...