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縁談の話は、デッカード侯爵サリオン様の紹介によるものだった。

つまり、夫人の噂を止められなかった詫びといったところだろうか。


「相手はダッチス・モリス男爵。あぁ、あの夫人が間男と心中したとかいう男の後妻だな。」
 

ダッチス・モリス男爵 29歳。子供は7歳の女の子が一人。
昨年、妻が失踪した挙句、浮気相手と心中死していたことが判明して醜聞の的になった男。

今話題の悪女と昨年の醜聞男を夫婦にするという発想は、一体誰の入れ知恵なのだろうか。 

コレは詫びではなく、新たな醜聞なのではないだろうか。

 
「モリス男爵はデッカード侯爵の同級生らしいな。
後妻を探していたからお前がちょうどいいと思ったんだろう。
持参金はいらないらしいし、まぁ、こっちに入ってくる金はないが出ていく金もないからいいとするか。
老い先短いジジイに嫁がせても、すぐに帰って来たら意味ないしな。」

 
娘をとことん金づるか、邪魔者扱いしかしない父が仕方なく妥協したのは侯爵が望んだ縁組だからなのだろう。
たかが子爵が、醜聞によって持て余すことになった娘の縁談話を断るはずがない、むしろ感謝すらするだろうと侯爵は思っているに違いない。

そしてモリス男爵も似たようなものかもしれない。アリーズを押しつけられたのだろう。いい迷惑だ。
 

「10日後にモリス男爵と王都で顔合わせをするそうだ。んで、そのまま婚姻届にサインを終えたらモリス男爵領に向かうらしい。俺は面倒だから一緒に王都には行かないぞ?」
 

つまり、婚約期間も、結婚式も何もなく入籍をするだけのため、父は出費がないことも嬉しいのだ。

食い扶持が減る。その程度にしか思っていないのだろう。


アリーズは年齢差が10歳で済んだことにはホッとした。

ただ、元妻はモリス男爵から逃げたくなるくらい男爵のことが嫌だったのだろうか。
その理由は?暴力?暴言?浮気?冷遇?無関心?
 
元妻が気の多い女性で浮気性であった。
もしそうなのであれば、モリス男爵が悪いとは言えない。
 
だけど、それなら心中するよりも逃げそうな気がする。

逃げられなくて精神的に追い詰められていたから。
そうだとすれば、やはりモリス男爵は非情なところがあるかもしれないと覚悟して嫁がなければならない。


ため息をつきながら部屋を出ると、廊下でスレイバー様が待っていた。


「相手の男は誰だったんだ?」

「モリス男爵よ。後妻を探してらしたそうなの。お嬢さんがいらっしゃるわ。」

「ああ、あの。思ったよりも若いな。……受けるのか?」

「デッカード侯爵の紹介なの。もう決定なのよ。10日後に王都で入籍ですって。そしてそのまま男爵の領地に向かうらしいわ。5日後にはここを出ないとね。」

「……ここから2日くらいか?モリス男爵領までは。何かあれば連絡しろよ。」

「ありがとう。」


確かにここからだとモリス男爵領まで2日くらいかもしれない。
むしろ、王都に向かう方が手間と言える。

それなのに王都で入籍の手続きをするのは、デッカード侯爵が私たちを仲介したのだ、いいことをしたのだと得意気に思いたいからに違いない。 

当人たちにとっては、非常に有難迷惑ということも気づかずに。

 
 
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