上 下
45 / 47

45.

しおりを挟む
 
 
学園から公爵邸に戻ったラインハルトは、シフォーヌに部屋にいるように告げて、自分は父親の元へと向かった。

父親に学園での出来事を告げて、ラインハルトは言った。


「父上、シフォーヌとエリオットの婚約は解消することになると思います。
 妹の言葉を聞いた者は多い。もうエリオットの耳にも入っていることでしょう。
 それに、シフォーヌは思い人とも婚約できない。彼には婚約者がいるし、その気もない。
 シフォーヌの婚約者になれる令息は、金目当ての下位貴族しかもういないでしょう。」

「………そうか。やはりな。あの娘の性格では政略結婚でしか結婚できないだろうにな。
 まぁ、いい。他にも面倒をかけるわけにはいかん。
 今後の目途がつくまで、学園には行かせない。それでいいな?」

「はい。」


それから少しして、シフォーヌとエリオットの婚約は正式に解消された。



ふた月後、シフォーヌは2つ離れた国の王太子の第3夫人として嫁いで行った。
ちなみに我が国では16歳で婚姻可能だが、その国は14歳かららしい。
まだあと数か月は15歳のシフォーヌだが、問題ないということになった。

金はある国で裕福な暮らしはできるはず。
寵愛は一時だけかもしれないが、その後は下賜を望む男の妻になれるそうだ。
第3夫人の座は、子供を産ませずに下賜される地位らしい。
一夫多妻の国なので、異国の女性は喜ばれて次々と夫が変わることもあるという。
まだ若いシフォーヌは大勢に可愛がられることだろう、と父親から嘲笑交じりに告げられたラインハルトは複雑な思いだった。

ハンプトン公爵家のためには、シフォーヌにこれ以上名を汚されることがあってはならない。
他国に留学させて寮に入れるか、諦めて修道院に送るかのどちらかだと思っていた。

まさか、他国に嫁がせるとは。まるで目途をつけていたような手際の良さだった。


シフォーヌの実母は金欲しさに子供を産む契約をした令嬢だったとセバスからは聞いた。
父は、シフォーヌの実母を嫌っていたのかもしれない。
その陰をシフォーヌに見ている気がする。
優しく声をかけるところなど、見たことがないからだ。
金は自由に使わせていたし、相応しい教育も手配していたが、ラインハルトの半分にも満たない出来に早くから見切りをつけていたように思う。
 
それでも、金に不自由しない婚約者を父は用意した。援助も考えていたかもしれない。
それを裏切ったのは、シフォーヌ自身だ。

もう、私たちにシフォーヌの近況が聞こえてくることはないだろう。
おそらく、国に返してくれなくてもいいと伝えているに違いない。

父はシフォーヌを捨てた。
他国に嫁がせたというのが表の事実であったとしても。

冷たいようだが、ラインハルトもシフォーヌに助言はしたのだ。
別に仲が良くも悪くもない妹だったが、先が見えていたのに助言せずに放置するのは兄として正しくないと思ったから。
だけど、お金よりも愛を選ぶといった。
こうなることを選んだのは妹自身のため、どうしようもなかった。
たとえ、その愛が報われないと知っていたとしても。




ラインハルトは、異母妹を失った。

だが、異父弟妹はいる。

異父弟セドルは、伯爵令嬢と婚約した。
グローリー伯爵家にもミュイカ嬢にも問題はない。
カイト殿は急だったにも関わらず、良い縁を見つけたようだ。


次は、異父妹ルミアに相応しい相手を用意しなければならない。

ルミアがラインハルトを兄だと知らなくても、私は妹だと知っているから。







 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

(完結)逆行令嬢の婚約回避

あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。 わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。 何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。 完結しています。忘れなければ毎日投稿します。

処理中です...