44 / 47
44.
しおりを挟む王都から領地に帰ってきて数か月後、王都から届いた最新の手紙を読んでカイトが言った。
「ジュゼット、ルミアの婚約者が決まるかもしれない。」
「え?急ね。ルミアに縁談の話があったってこと?」
「顔合わせをしたらしい。相手がルミアを気に入ってしまったみたいだ。
ご両親も本人も。ちなみに侯爵令息だ。」
「……侯爵令息?まさか………」
「そのまさか、だ。ハンプトン公爵令嬢と婚約していたエリオット・デイビス侯爵令息だ。
侯爵家が乗り気であるため、伯爵家であるうちは断りづらい。
前の婚約解消に間接的にでも関わっているしね。
そして、ルミアは意外にも婚約しても構わないと思っているそうだ。」
「あのルミアが?」
ほんとに意外。貴族らしい生活に耐えられるのかしら。
ルミアの顔はとても可愛いわ。黙っていれば。見た目に騙されたのではないかしら。
淑女とは言い難い性格をしているのに、いいのかしら。
というか、カイトがルミアと侯爵令息との結婚に絶対反対だといった感じではないところを見ると、侯爵令息は私の息子ではないということ。つまり、デイビス侯爵様は『旦那様』ではない。
ここで、私の予想はハンプトン公爵が『旦那様』であると限定されてしまった。
当たっているかもしれないし、外れているかもしれない。
誰とも答え合わせをするつもりもない。
今までのように、これからも過ごしたいから。
セドルに好意があったハンプトン公爵令嬢が婚約者であるデイビス侯爵令息と婚約解消をしたのは、新学期が始まって少し経った頃だった。
案の定、公爵令嬢はセドルの婚約にご立腹だったという。
彼女は新学期早々、学園の入口の近くでセドルに声をかけた。
「セドル様、どうして勝手に婚約してしまったの?
私、あなたと付き合いたくて婚約を解消するつもりでおりましたのに。
もう少し待っていてくださったら……」
「どうして、と言われても僕とあなたは単なるクラスメイトですよね。
何の約束をした覚えもありませんし、あなたから何も言われた覚えもありませんが?」
「でも、わかるじゃない。私から言わせるつもりだったの?」
「いえ、そうではありません。
僕は婚約者のいる令嬢と親しくしたつもりも、するつもりもありません。
みんなと同じように接していたつもりです。
誤解を招くようなことをしたくなかったので、男の友人以外と接することはやめたのです。」
「だから前学期の終わり頃はお話できなかったのね。
わかったわ。先に婚約解消しなきゃだめね。そうすれば話をしてくれるでしょう?」
「いえ、僕には婚約者がいます。
ですので、どのご令嬢とも適切な距離感でしか話をしません。
婚約者に不誠実だと思われたくはないので。」
「あら。だったら婚約解消すればいいじゃない。
私が婚約者になるわ。
そうすれば、不誠実にはならないでしょう?」
「僕は今の婚約を解消する気はありません。
ですから、あなたの婚約者になる気もありません。」
「私は公爵令嬢よ?別れるように指示すれば、簡単ではなくって?」
「シフォーヌ、そこまでだ。」
会話に割って入ったのは、ラインハルトだった。
「どうして?お兄様。」
「爵位の上の者が、格下の婚約に口出しすることは許されていない。
それに、こんなに目立つ場所で非常識な発言を繰り返すとは恥ずべきことだと自覚しなさい。
セドル殿、だね。妹が申し訳なかった。」
「あ、いえ、こちらこそこのような場所で応じてしまい申し訳ございませんでした。」
「いや、君はいいんだ。妹と2人きりにならないためには仕方のないことだ。
授業に向かってくれ。妹は連れ帰るから。」
ハンプトン兄妹は帰ったが、放った言葉はもちろんシフォーヌの婚約者の耳にも入った。
138
お気に入りに追加
1,626
あなたにおすすめの小説
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
(完結)逆行令嬢の婚約回避
あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。
わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。
何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。
完結しています。忘れなければ毎日投稿します。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる