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王都から領地に帰ってきて数か月後、王都から届いた最新の手紙を読んでカイトが言った。


「ジュゼット、ルミアの婚約者が決まるかもしれない。」

「え?急ね。ルミアに縁談の話があったってこと?」

「顔合わせをしたらしい。相手がルミアを気に入ってしまったみたいだ。
 ご両親も本人も。ちなみに侯爵令息だ。」

「……侯爵令息?まさか………」

「そのまさか、だ。ハンプトン公爵令嬢と婚約していたエリオット・デイビス侯爵令息だ。
 侯爵家が乗り気であるため、伯爵家であるうちは断りづらい。
 前の婚約解消に間接的にでも関わっているしね。
 そして、ルミアは意外にも婚約しても構わないと思っているそうだ。」

「あのルミアが?」


ほんとに意外。貴族らしい生活に耐えられるのかしら。

ルミアの顔はとても可愛いわ。黙っていれば。見た目に騙されたのではないかしら。
淑女とは言い難い性格をしているのに、いいのかしら。

というか、カイトがルミアと侯爵令息との結婚に絶対反対だといった感じではないところを見ると、侯爵令息は私の息子ではないということ。つまり、デイビス侯爵様は『旦那様』ではない。
 
ここで、私の予想はハンプトン公爵が『旦那様』であると限定されてしまった。

当たっているかもしれないし、外れているかもしれない。

誰とも答え合わせをするつもりもない。

今までのように、これからも過ごしたいから。


 



セドルに好意があったハンプトン公爵令嬢が婚約者であるデイビス侯爵令息と婚約解消をしたのは、新学期が始まって少し経った頃だった。

案の定、公爵令嬢はセドルの婚約にご立腹だったという。
彼女は新学期早々、学園の入口の近くでセドルに声をかけた。


「セドル様、どうして勝手に婚約してしまったの?
 私、あなたと付き合いたくて婚約を解消するつもりでおりましたのに。
 もう少し待っていてくださったら……」

「どうして、と言われても僕とあなたは単なるクラスメイトですよね。
 何の約束をした覚えもありませんし、あなたから何も言われた覚えもありませんが?」

「でも、わかるじゃない。私から言わせるつもりだったの?」

「いえ、そうではありません。
 僕は婚約者のいる令嬢と親しくしたつもりも、するつもりもありません。
 みんなと同じように接していたつもりです。
 誤解を招くようなことをしたくなかったので、男の友人以外と接することはやめたのです。」

「だから前学期の終わり頃はお話できなかったのね。
 わかったわ。先に婚約解消しなきゃだめね。そうすれば話をしてくれるでしょう?」

「いえ、僕には婚約者がいます。
 ですので、どのご令嬢とも適切な距離感でしか話をしません。
 婚約者に不誠実だと思われたくはないので。」

「あら。だったら婚約解消すればいいじゃない。
 私が婚約者になるわ。
 そうすれば、不誠実にはならないでしょう?」

「僕は今の婚約を解消する気はありません。
 ですから、あなたの婚約者になる気もありません。」

「私は公爵令嬢よ?別れるように指示すれば、簡単ではなくって?」

「シフォーヌ、そこまでだ。」


会話に割って入ったのは、ラインハルトだった。


「どうして?お兄様。」

「爵位の上の者が、格下の婚約に口出しすることは許されていない。
 それに、こんなに目立つ場所で非常識な発言を繰り返すとは恥ずべきことだと自覚しなさい。
 セドル殿、だね。妹が申し訳なかった。」

「あ、いえ、こちらこそこのような場所で応じてしまい申し訳ございませんでした。」

「いや、君はいいんだ。妹と2人きりにならないためには仕方のないことだ。
 授業に向かってくれ。妹は連れ帰るから。」


ハンプトン兄妹は帰ったが、放った言葉はもちろんシフォーヌの婚約者の耳にも入った。 
 


 
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