37 / 47
37.
しおりを挟むところが、学園に入学した妹シフォーヌがセドルの名を口にし始めたのだ。
重いものを持ってくれた。
届かないところにある本を取ってあげていた。
わからない問題を教えてくれた。
髪留めが可愛いと売っている店を聞いていた。
笑いかけてくれた。
どう聞いても、自分に向けられたものではない情報も入っていた。
つまり、気になっているからセドルの行動を見ているということになる。
シフォーヌには侯爵令息の婚約者がいるのだ。
しかも気になっているセドルは関わりを持ってほしくない相手。
これはよくない傾向だった。
「シフォーヌ、婚約者以外の令息にそんなに興味を持ってはいけないよ。」
「だって、カッコイイんだもの。
騎士になりたいわけでもないのに体格も良くて笑顔も素敵で。
それに比べて婚約者のエリオットは、私の話にため息ばかりなんだから。」
それはシフォーヌがドレスや装飾品の話ばかりするからじゃないのか?
そういうのは令嬢たちとしたらいいんだ。
私でも、初めは笑顔で話を聞けても毎回だとうんざりすると思う。
「シフォーヌはエリオットの話を聞かずに一方的に話しているだけだろう?
反応を返せない話ばかりするから会話にならないんだよ。」
「だって。エリオットの話はつまらないから。」
エリオットはお前の話がつまらないと思うが。
「あぁ、婚約解消できないかしら。」
「……止めておけ。父上が財力のある侯爵家を選んだのはお前のためなんだから。
爵位が下がるほど、贅沢とはほど遠い生活になるぞ?」
「でも……好きな人と結婚する方が幸せじゃないかしら?」
現実がわかっていないな。四六時中、一緒にいられるわけがないんだ。
仕事中の夫に相手をしてもらえなくて、不貞腐れて当たり散らす未来が見えそうだ。
「食事が質素になっても?宝石のランクが落ちても?ドレスの購入回数が減っても?」
「……伯爵くらいだったら、そこまで落ちないでしょう?」
「わかってないな。そりゃ裕福な伯爵家も子爵家もある。
だが、公爵家・侯爵家と比べれば、ドレスの値段など桁が1つ2つ違うぞ?
王女の降嫁は上2つの貴族家、王子妃も上2つの貴族家または陞爵の見込める伯爵家だ。
価値観の合わない結婚は悲惨なことになるぞ。絶対に後悔することになる。」
「もうっ!お兄様は夢がないわ。お金よりも愛よ!」
怒ってシフォーヌは出て行った。
シフォーヌの実母は愛よりもお金を選ぶ女性だったようだが。
あるいは、愛を選んで失ったために裏切らないお金を選んだ女性だったのかもしれないが。
シフォーヌがそのようなことにならなければいいが、と思った。
しかし、父がシフォーヌを見放して婚約解消を認める可能性もある。
シフォーヌの言動で侯爵家との関係が悪くなるのであればサッサと婚約解消し、伯爵家に面倒事を押し付けるかもしれない。厄介払いだ。
伯爵家に嫁ぎたいなら嫁げばいい。苦労するのは自分だ。と父は妹を切り捨てる。
父が選んだ婚約を解消するということは公爵家には不要な者となり、父はシフォーヌために援助しないだろう。
コールマン家が巻き込まれるかもしれない。
それに、父とジュゼットを会わせたくない。
セバスが言うには、実は2人目の子供の母も父はジュゼットを希望したという。
しかし、結婚していたため違う女性に依頼した。
ジュゼットではないことに気づいた父はセバスに確認し、ジュゼットが結婚していたことを聞いてショックを受けたように見えたという。
なので、父にはジュゼットの名前を教えたくなかったとセバスは言っていた。
私もそう思う。
夜会で亡き母カサンドラと同じ髪色の女性を見るたび凝視しているのは目の色の確認だろう。
父はジュゼットを探している。
貴族のまま暮らしているとは限らないのに。
むしろ、未婚で純潔ではない令嬢など夜会に出てこれるほどの真っ当な貴族に嫁げるはずもないということに気づかないことが不思議だ。まぁ、万が一を考えているのかもしれないが。
どういうつもりかはわからないが、会わせたくない。
だから、私はカイト・コールマンと会うことにしたのだ。
146
お気に入りに追加
1,626
あなたにおすすめの小説
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
(完結)逆行令嬢の婚約回避
あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。
わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。
何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。
完結しています。忘れなければ毎日投稿します。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~
葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」
男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。
ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。
それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。
とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。
あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。
力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。
そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が……
※小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる