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しおりを挟むもう実家の領地は目の前だった。
私はカイ様に最後の確認をするために、本名を伝えようと思った。
「カイ様、もう私の実家がどこかおわかりになったのではないですか?」
「そうだな。君はコールマン伯爵令嬢、かな?」
「はい。ジュゼット・コールマンと申します。」
「ジュゼットか。ジュリってセバスさんがつけたんだろう?安易だよな。」
「カイ様もセバスさんに?」
「ああ。僕は、カイト・グレンジャーだ。伯爵家だよ。」
「……私より安易ですね。ほぼそのままじゃないですか。」
セバスさんの偽名のセンスのなさに笑ってしまった。
「ご存知だとは思いますが、父の2度に渡る借金によって評判の悪い伯爵家です。
今ならなかったことにしてもらって構いません。」
「……求婚を?まさか。
そんなことで気持ちが変わるほど軽い思いで求婚したわけじゃないよ。
お父上は僕が見張っても構わない。
あるいは、ギャンブルや悪い話に乗らないように、もっと有意義な楽しみを一緒に見つけるよ。」
父と一緒に……そう言ってくれて嬉しいと思った。
父は、母が亡くなって寂しかったのだと思う。
兄には妻がいる。
私は学園に通っていた。
つい、寂しくてギャンブルの才能などないのにのめり込んだ。
王都の屋敷を売って、領地に戻っても領地の街ではそれほど遊べない。
仕事で王都に来た時に再びギャンブルで借金をした。
兄もまさか、もう売れる物などないのにまだお金を貸してくれるところがあるなんて思いもしなかったに違いない。
さすがに、この1年と少しの間に父も落ち着いていると思いたい。
だけど、これからもずっと目を放すことはできない。
兄も、父の監視を続けてくれているはず。
「ありがとう。あなたのご実家は私が相手で大丈夫かしら。」
「大丈夫だ。兄と弟がいる。好きにしたらいいと言われているから。
王都は面倒だし疲れる。領地で楽しく暮らす方がいい。
騎士でも書類仕事でも何でもできるよ。」
「そうね。手伝ってくれたら兄も喜ぶかもしれないわ。」
カイ様がうちの領地で私と暮らしてくれるつもりだと知って、嬉しかった。
優しいカイ様が好きになってしまった私は求婚を受け入れた。
カイ様は私を抱きしめた後、キスをした。
『初めて』と言うと、何度も繰り返しキスをしてくれて幸せだと思った。
領地へと入り、屋敷の近くにある大きな街に馬車が着いた。
見たところ、以前と大きな変化はないようだった。
父の借金は、領民の生活を苦しめるような税を上げたりするようなものだったわけではない。
伯爵家の貯えをゼロにした。
そして、大きな災害などが起きた時の非常時に必要な資金まで減らしている可能性はある。
そこは兄がゼロにはしていないと信じたい。
何の連絡もせずに屋敷に着いた私たちは、顔見知りの使用人と兄夫婦に驚きの顔で迎え入れられた。
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