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領地にいる家族は、私が何らかの代償を受ける代わりに借金が返済されたことがわかっている。

セバスさんが具体的に話しているはずもない。

私が純潔のままか、だなんて聞くに聞けない。
あるかわからない見合いの話を私が断れば、『あぁ、やっぱり』と気に病むことになる。

だけど、私が結婚したい人を連れて帰ったとしたら?

家族は安心してくれると思う。

私は、チラッとカイ様を見た。
彼はご機嫌な様子で、考え事をしていた私をずっと見ていたようだった。


「……求婚の件、前向きに考えていきたいと思います。
 私たち、まだお互いのことを良く知りませんよね?
 領地へと向かいながら、もっと知り合いましょう。」

「ああ。それでいいよ。僕の名前、言っておこうか?」

「いえ、まだいいです。」


それから街に着くまで、少しずついろんな話をした。

カイ様は私より5歳上。
6歳上の兄と歳が近いことにドキッとした。
顔見知りの可能性は十分にあった。

婚約者がいたことは、ある。
騎士としての訓練を積んでいる間に、婚約者が浮気をしたらしい。
それで婚約解消。
王都の騎士団に入るつもりが、元婚約者が何度も復縁を迫りに来るので貴族家に雇われる騎士になった。
しかし、そこで10歳下の令嬢に懐かれて面倒事を避けるために辞めた。 

単に体を動かすことが好きなので騎士になっただけ。
騎士という仕事に拘るつもりはない。
ジュリがクッキーの店を開くのであれば、発注や売上管理でも何でも手伝う。

そう言われて笑ってしまった。

売り物になるほどのクッキーではない。

カイ様と話をするのは、とても楽しかった。



街に着くと、馬車は平民の泊まる宿の近くではなく、低位貴族が泊まる宿の近くで止まった。
乗った馬車のランクで場所が変わるらしい。
ちなみに、高位貴族が乗合馬車に乗ることはほとんどないため、高級宿近くには希望しない限り止まらないという。

昔は高級宿の方に泊まったこともあったけれど、今では泊まることはない。
部屋を2つ取り、ひとまず休憩することになった。
あとで夕食を食べに行く必要もある。

久しぶりの外出でとても疲れてしまったけれど、解放感もあった。



それからも同じような旅が続いた。

馬車で移動して、宿に泊まる。
天気次第で延泊したり、観光したり。
自分の家の馬車では休憩のときにしか寄らなかった街でも泊まるので、食べたことのない物を食べたりできて楽しかった。

カイ様が一緒にいてくれて助かった。
一人旅は辛すぎただろう。
それに楽しく話をしている間は、腰の痛みもマシに思えるから。
平民用の乗合馬車で移動していたとしたら、腰が痛くて宿で寝込んでいたかもしれない。
そう話したら、カイ様がクッションを買ってくれた。嬉しい。


カイ様はどこに向かっているか、気づいているかもしれない。
馬車乗り場には、大きな領地図もある。
どこの領地を抜ければ、次はどこの領地になるかがわかる。

身を売るほどの借金があった貴族家なのだ。
名前を耳にしていて覚えていてもおかしくはない。 

それでも、カイ様はいつもと変わらない。
結婚をやめると言い出さない。

もうすぐ、領地が目の前になる。

その前に、最後の確認をする必要があった。
 


 
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