16 / 19
16.
しおりを挟むチェリムが学園から帰宅し、談話室で親子4人だけで話をすることになった。
「まず、チェリムは卒業はできそうだ。だが、跡継ぎ資格のラインには及ばない。」
「……まだ半年ありますが、チェリムに頑張る気はない、と?」
「お姉様、あのね、私、婚約したい人がいるの!」
チェリムからの手紙には、恋人がどうとかプロポーズがどうとか書いてあったけど意味不明だった。
「……それは婚約者候補のコリン・レモールではなく?」
「ええ。同級生の子爵令息なんだけど……ほら、お父様が一度お見合い話を持ってきた人。」
「……チビでデブでニキビ顔が嫌でクラレンスを選んだ時の?」
その男が嫌だから、あなたはクラレンスに逃げたんじゃなかった?
「そうそう。彼がね、私のために見た目を努力するって頑張ってくれたの。
暴飲暴食をやめたら、少し背が伸びて、痩せて、ニキビが無くなって。
可愛い感じになったの。クラレンス様やコリン様よりも、私のタイプなの。
それでね、この1年くらい付き合ってるんだけど、正式にプロポーズされたの。
卒業後に嫁いでほしいって。向こうのご両親も嫁いでくれるなら賛成だって。」
私が家を出たこの1年半のうち、1年も付き合ってたのね。
始めの半年のうちの数か月は子爵令息がチェリムの好みになるように努力していた期間かしら。
本当にこの子には振り回されるわ。
「……つまり、あなたはその子爵令息と付き合いだしたから勉強にも身が入らなかったのかしら?」
「だって。コリン様に教えてもらっても、全然わからないんだもの。
いっつも冷たい目で見て、呆れたように溜め息ついて。」
教え甲斐がなければ、コリンでなくとも溜め息をつきたくなる。
コリンはどういうつもりでこの1年と少しの間、チェリムの婚約者候補として伯爵家に通っていたのかしら。
父に縋られて候補になったはずなのに、肝心の相手にはすぐに付き合う恋人ができていた。
それでも毎週のように勉強を教えて、伯爵家の仕事も学んでいた?
意味不明だ。父も、チェリムも、コリンも。
「お父様、どうしてコリンはチェリムの婚約者候補のままここに通っていたのですか?」
「あー。実は、チェリムに恋人がいるとは私たちもしばらく知らなかったんだ。
4か月ほど前に知ったんだが、言い出しにくくて。
それに別れるかもしれないだろう?だから彼を手放せなかったんだ。」
うわー。自分の都合だけで、コリンをいいように扱ったってことね。
「コリンにはいつ言ったのですか?」
「チェリムが恋人にプロポーズされたとわかってからだな。
ひと月半ほど前だ。
彼はチェリムに祝福の言葉をくれた。だが……条件があると言ってね。」
条件ね。それがあのコリンからの手紙だけに書かれていたことなのね。
『1年以上も候補として縛られた。責任を取ってプリムの婚約者にしてもらう。』
父は、彼の手紙にあった言葉通りのことを言った。
「チェリムは跡継ぎになれないし、ならない。
だから、プリム。お前に頼みたいんだ。
跡継ぎをチェリムでもいいかと気軽に考え、プリムに仕事だけ押し付けようとしたことは悪かった。
お前が仕事をしてくれていたら、跡継ぎが誰でも問題ないなんて愚かな考えだった。
遠い親戚なんかに領地を任せたくない。お前に継いでほしいんだ。
……そして、できればコリン君と結婚してほしい。」
チェリムは自分の幸せを選び、跡継ぎから逃げた。
お父様はもう私に縋るしかない。
コリンは……嫌がらせ?いや、でも本当に嫌なら候補なんだから逃げられたはず。
グレイブ伯爵家の仕事に興味があった?
まさかチェリムに気があった?……外見じゃなくておバカな子が可愛いと思う人もいるし?
良くわからないから、コリンには直接聞くしかない。
「分かりました。私が継ぎます。結婚については直接コリンと話し合います。
ただし、私も条件をつけさせてもらいますね。全て許したわけではありませんので。」
そうよ。私は心の狭い女なの。愛人や娼婦が許せないだけじゃない。
はい元通り。とあなたたちと以前の関係に戻れると思ったら大間違いなんだから。
125
お気に入りに追加
2,403
あなたにおすすめの小説
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
婚約破棄ですか?勿論お受けします。
アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。
そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。
婚約破棄するとようやく言ってくれたわ!
慰謝料?そんなのいらないわよ。
それより早く婚約破棄しましょう。
❈ 作者独自の世界観です。
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~
四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?
【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします
よどら文鳥
恋愛
私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。
このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。
ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。
ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。
その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる