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しおりを挟む辺境で暮らすようになって、約1年が経とうとする頃、強い魔獣の群れが比較的領地の街近くにまでやってきたらしく、プリムが知る限りで一番被害が大きかった。
向かってきた魔獣は騎士たちが必死で仕留め、それでも全てを倒しきることは出来ず、森の奥へと逃げていった魔獣を後追いする余力もなかった。
プリムは他の治癒師と共に、治療院で待つのではなく現場近くまで行って多くの騎士たちを治療した。
そして、今、プリムの目の前にいる男性も、治療を受けた一人だと言う。
プリムとしては流れ作業的に治療していったので、正直、この男性のことは全く覚えていなかった。
今日までにも何人もにお礼を言われたけれど、その人たちも同様に記憶にない。
だけど、元気に動けるようになってよかったな、とそう思いながらこちらも討伐のお礼を言っていた。
この男性は伯父様たちを通してまでわざわざ私にお礼を言いたかったのか、少し不思議だったけど、同じように返事を返した。
だが、この人はお礼だけではなかったらしい。
「ルシード・ピルチ、子爵家の次男です。
治療してもらった時に一目惚れしました。結婚を前提にお付き合いをお願いします。」
「………はい?」
どういうことだ?と伯父たちを見た。
「あー。ルシードにはちゃんと説明した。
プリムが愛人や娼婦を認めることはない、辺境騎士と結婚する気はない、と。
だがあまりにも必死なんで、一週間考えさせたんだ。本当にプリムを裏切らないかって。
この男は、その間に懇意にしていた女性にももう会わないと告げたらしい。
そこまでしたんなら、一応お前に告白する権利をやってもいいだろう?
後はお前が決めることだしな。
騎士としての腕は悪くないし、男前だし、プリムと似合いそうだと思うんだが、どうだ?」
どうだ?って……懇意にしていた女性って、娼婦じゃなくて定期的に体の関係があった女性がいたってことでしょ?
それって恋人じゃないの?体だけの関係だったら恋人じゃない?愛人?
でも愛人って生活全般を面倒見るようなイメージがあるんだけど、それって未婚なら結婚したらいいだけだよね。
金銭のやり取りがないから愛人でもないってこと?
娼婦にはお金を払うし、固定の女性でなくてもいいのよね?
つまり、金銭関係なく性欲を発散するのに付き合ってくれる女性がいたってことかな?
まぁ、ここだと娼婦じゃなくても何人もの男性経験がある女性は多そうだもんね。
「その懇意にしていた女性とは円満にお別れできたのですか?
好意があった、もしくは好意を持たれていたということはなく?」
「ええ。令嬢にこんなことは言い辛いですが、お互いに発散が目的でしたので。」
「ですが、私は結婚してからでないと関係を持つつもりはありません。
もしお付き合いしたとしても、その間は発散もできませんよ?」
「わかっています。
ですが、あなたのことをもっと知りたいと思うようになってから、戸惑いがあって。
好きになった女性との行為が幸せを感じるのではないかと思ったら他の女性にソノ気がなくなって。
どうか、お付き合いしてくれませんか。裏切るようなことは絶対にしません。」
ルシード様の本気を感じた。
彼を信じてみたい。そう思った。
頭の片隅では、本当に裏切らないと信じられるのか?辺境騎士なのに?と疑う声がある。
だけど、それは誰にでも言える。まぁ、普通の男よりも辺境騎士は裏切る可能性が高い気もするけど。
結婚を諦めて、仕事に生きようと思い辺境にやってきた。
それでもやはり女としての幸せを望みたい思いもずっと持っていた。
こんな考えの私が、辺境で幸せを掴めるかも?
ここに来て1年、こんな始まりもいいかと思い、受けてみることにした。
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