上 下
3 / 19

3.

しおりを挟む
 
 
チェリムは私がここまで怒るとは思わなかったのだろう。 
自分がクラレンスと結婚しても、私が手伝ってくれると本気で思っていたのだろう。


「もし、私がクラレンス様とのことをなかったことにしたら?」


チェリムが恐る恐る聞いてきたことは、非常に問題発言だったけど気にせず答えた。


「関係ないわ。私とクラレンスとの関係は終わった。取り消せない。
 慰謝料はどちらにも払ってもらう。
 それに結婚式の準備にかかった費用もクラレンスに払ってもらう。
 あなたたちの関係については、好きにすればいい。」

 
チェリムはまだ16歳だし、跡継ぎになるには学園を卒業しなければならない。
私に代わって結婚式をあげることもできないのだ。
要するに、あと2年は結婚できない。


「プリム嬢、それではクラレンスが婿入りできるかどうかわからないじゃないか。」

「それはクラレンスが仕出かしたことの結果です。
 婿入りするはずだったのに、別の女性に告白して婚約解消を望んだのですから。
 チェリムが受ける受けないに関わらず、婚約破棄案件です。
 現時点でこのグレイブ家の跡継ぎの資格があるのは私だけです。
 チェリムが跡継ぎに代わるというのは、決定事項ではありませんもの。
 まだ卒業まで2年ありますからね。
 我が家の話し合いの結果とチェリムが跡継ぎの資格を得られたら可能性もあるのでは?」


6年前に祖父から父に爵位が譲られた時、私が跡継ぎだと仮登録していた。
そして学園を卒業した少し前に、跡継ぎだと本登録したばかりなのだ。
本登録を終えた跡継ぎから数年以内に別の者に変更する場合、本登録できる資格のある者に限られる。
つまり、学園を卒業していないチェリムはまだ登録できないのだ。
本登録した跡継ぎが爵位を継ぐことなく変更されるには理由が必要だ。
理由を申請して認められれば別だが、私に瑕疵はない。

例えば、私が嫁に行くことになったので変更したいということは可能だ。
その場合はチェリムで仮登録ができる。


チェリムの言い方では、何が何でもクラレンスでなければ、というほどの好意はない。
ただ、勧められた縁談の相手が好みではなくクラレンスに逃げただけなのだから。
  
チェリムが跡継ぎになるということが知れ渡ると、クラレンス以外にも婿入り候補が現れるだろう。
クラレンスを選んでもいいし、ほかの候補から選んでもいい。
自分の婿になるのだから、父の選んだ婚約者候補に嫁ぐ必要はなくなる。

正直、クラレンスはあまり賢くない。
長年の婚約者だったし、役には立たないようだけど邪魔もしないだろうと思って結婚する気だった。

だけど、チェリムと結婚するとなるとどうだろう。
チェリムは仕事をやってくれる婿を選んだ方がいいのではないだろうか。

でないと不安な気がする。




婚約解消届にクラレンス有責の印を入れてサインをした。

これで慰謝料は規定額を払わなければ、ネーブル家を訴えることができる。さすがに払うだろう。

婿に来る側なのに、自分たちの思い通りにしようとしたのが間違いなのだ。



 

 


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

婚約破棄ですか?勿論お受けします。

アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。 そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。 婚約破棄するとようやく言ってくれたわ! 慰謝料?そんなのいらないわよ。 それより早く婚約破棄しましょう。    ❈ 作者独自の世界観です。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

二人ともに愛している? ふざけているのですか?

ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」  婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。  馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。 「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」 「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」 「それは……大変ですね」  気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。    エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。 「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」 「そうだよ」 「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」  うん。  デレクは、姿勢をぴんと正した。 「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」 「はい」 「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」  エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。 「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」  違うよ。  デレクは笑った。 「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします

よどら文鳥
恋愛
 私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。  このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。  ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。  ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。  その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。

処理中です...