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マーガレットはアシュレイとの閨事に満足しているのに悩みがあると言う。意味がわからなかった。

マーガレットは隠すことを諦めたように話し始めた。


「あのね、あなたとの結婚は子供を産むためでしょう?なのに半年経ってもまだ妊娠していないわ。」


あぁ、そういうことか。妊娠できないから悩んでいたのか。だがまだ半年なのに。


「確かに、僕が触れたいのはあなただけだから、あなたとの子供ができれば嬉しいだろう。
だけど、それはどちらでもいいんだ。僕はあなたにそばにいてほしいから結婚したのだから。」

「でも、4年経っても妊娠しなければ、あなたは別の女性に子供を産ませるかもしれないでしょう?
妊娠しなかった私をもう抱く必要はなくなるのに、それでも私はあなたのそばにいることになるの?
その時、私は妻のまま?それとも別の女性を妻にして私はどういう立場になるの?
そんなことを考えて悩んでしまったのよ。」


ん?なんか、嫉妬しているように聞こえるのは気のせいか?


「マーガレットが妊娠しなくても、別の女性に子供を産ませることはしないよ。
跡継ぎは親戚から跡継ぎを見繕ってデイジーと結婚させてもいいし、デイジーを跡継ぎにしなくてもその子供に継がせる方法を取ることもできる。ビビアナの処刑を避けたいんだろう?あなたが妊娠できなくても心配ない。」


ビビアナの不貞は記録に残っているが、デイジーを跡継ぎにしない限り処刑はない。
公爵家に対する脅しみたいなものだ。
でないと、父の死に対して反省したと言ってビビアナがアシュレイに再婚を迫れば、ビビアナが社交界に戻れるという愚かな思惑を抱くからだ。
そしてデイジーを利用しようとする考えを公爵から奪うためでもあった。


「え?そんな方法が取れるの?」

「ああ。要は、デイジーが跡継ぎにならなければいいんだ。」

「そうなのね。てっきり誰かがあなたの子供を生まなければビビアナ様が処刑されてしまうかと。」

「大丈夫だよ。それより……嫉妬してくれたのかな。僕があなた以外の女性を抱くかもしれないって。」

「……え?」

「それなら嬉しいのにな。僕はあなたを愛している。だから4年経っても離婚しないよ?
ずっとあなたを想ってきたから他の女性は誰もいらない。父が早くに亡くなってしまったから、あなたを抱きたいという欲が出てしまった。
子供はできたら嬉しいけれど、それは結婚する口実だった。あなたにそばにいてほしいから。
あなたにずっと執着しているこんな僕から逃げたい?」
 
「……逃げたいとは思わないわ。嬉しいもの。私も……あなたが好きよ。」


アシュレイはマーガレットを抱きしめた。
アシュレイの気持ちを受け入れてくれるだけでなく、思いを返してくれる日がこんなに早く来るとは!

マーガレットは、アシュレイが自分以外の女性を抱くことを想像すると辛くなったと言った。
自分を抱くように別の女性を抱く。
マーガレットを抱くことはなくなり、そばにいることを望まれるだけ。
そんな将来が来るのではないかと不安に思っていたらしい。

父アーロンとは、包み込まれるような安心感のある結婚生活で穏やかな気持ちでいられた。
だがアシュレイとの結婚生活は、いつかこの幸せが無くなるのではないかという思いがつきまとい始めたという。


「アシュレイに抱かれていなければ、デイジーの世話も別の女性が子供を産んでも平気だったわ。」


つまり、それまで全く男として意識されていなかったということだ。
だが、アシュレイがマーガレットを性の対象として見ていると言ったことで意識が変わった。

結局、マーガレットにとってアシュレイは微妙な位置にいる存在だったのだ。
息子でもなく、弟でもない。
アーロンの妻にはなれても、18歳と10歳で親子になるのは難しい。呼び名もそうだった。
おそらく、マーガレットにアーロンとの子供が産まれていれば、もう少し家族になれていた。

デイジーの存在もそうだ。
アーロンが生きている時に産まれていれば、アーロンの孫はマーガレットの孫という意識になる。
しかし、この半年はマーガレットが母のようにデイジーを育ててきた。

そして淡々と子作りするのではなく、性欲を発散するといった感じでもなく、毎日のようにマーガレットを丁寧に抱くアシュレイを独占したいと思うのも当然のことだったのだ。

恋愛に年齢差など関係ない。そこに体の関係が加われば尚更だ。

特に女性は自分を求めてくれる男性に情がわきやすいのだ。

アシュレイはマーガレットの体だけでなく、心も手に入れたことに歓喜した。



思いの通じ合ったアシュレイとマーガレットは、再び幸せな日常を過ごし始めたとき、マーガレットが妊娠した。

誰にも害されることのないように屋敷に閉じこもり、やがて男の子を出産。この子が後の侯爵になる。

アシュレイの喜びとマーガレットへの溺愛ぶりに、令嬢たちは後妻になることを諦めた。 




数十年が経ち、アシュレイはマーガレットの枕元にいた。
マーガレットは病気ではない。所謂、老衰でこの世を去ろうとしていた。


「私の最後にそばにいるのはあなた。言い続けたとおりね。」

「当然だ。僕が先に逝ったら、あなたの最後の男になれないかもしれない。あなたは魅力的だから。」

「ふふ。そんなことを言ってくれたのはあなた一人よ。幸せだったわ。」
 
「僕も幸せだった。すぐに追いかけるよ。」

「ええ。待ってるわ。」


マーガレットは眠るように旅立ち、見送ったアシュレイはマーガレットの体が冷たくなるまで寄り添い、自分もそのまま旅立った。
アシュレイは、ただただ気力で生きていただけで、マーガレットがいなくなったことで鼓動を止めた。



子供と孫、ひ孫たちは、アシュレイとマーガレットを同じ棺に入れたという。

アシュレイをマーガレットから離すことができなかったから……



<終わり>
 



 
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