13 / 13
13.
しおりを挟むマーガレットはアシュレイとの閨事に満足しているのに悩みがあると言う。意味がわからなかった。
マーガレットは隠すことを諦めたように話し始めた。
「あのね、あなたとの結婚は子供を産むためでしょう?なのに半年経ってもまだ妊娠していないわ。」
あぁ、そういうことか。妊娠できないから悩んでいたのか。だがまだ半年なのに。
「確かに、僕が触れたいのはあなただけだから、あなたとの子供ができれば嬉しいだろう。
だけど、それはどちらでもいいんだ。僕はあなたにそばにいてほしいから結婚したのだから。」
「でも、4年経っても妊娠しなければ、あなたは別の女性に子供を産ませるかもしれないでしょう?
妊娠しなかった私をもう抱く必要はなくなるのに、それでも私はあなたのそばにいることになるの?
その時、私は妻のまま?それとも別の女性を妻にして私はどういう立場になるの?
そんなことを考えて悩んでしまったのよ。」
ん?なんか、嫉妬しているように聞こえるのは気のせいか?
「マーガレットが妊娠しなくても、別の女性に子供を産ませることはしないよ。
跡継ぎは親戚から跡継ぎを見繕ってデイジーと結婚させてもいいし、デイジーを跡継ぎにしなくてもその子供に継がせる方法を取ることもできる。ビビアナの処刑を避けたいんだろう?あなたが妊娠できなくても心配ない。」
ビビアナの不貞は記録に残っているが、デイジーを跡継ぎにしない限り処刑はない。
公爵家に対する脅しみたいなものだ。
でないと、父の死に対して反省したと言ってビビアナがアシュレイに再婚を迫れば、ビビアナが社交界に戻れるという愚かな思惑を抱くからだ。
そしてデイジーを利用しようとする考えを公爵から奪うためでもあった。
「え?そんな方法が取れるの?」
「ああ。要は、デイジーが跡継ぎにならなければいいんだ。」
「そうなのね。てっきり誰かがあなたの子供を生まなければビビアナ様が処刑されてしまうかと。」
「大丈夫だよ。それより……嫉妬してくれたのかな。僕があなた以外の女性を抱くかもしれないって。」
「……え?」
「それなら嬉しいのにな。僕はあなたを愛している。だから4年経っても離婚しないよ?
ずっとあなたを想ってきたから他の女性は誰もいらない。父が早くに亡くなってしまったから、あなたを抱きたいという欲が出てしまった。
子供はできたら嬉しいけれど、それは結婚する口実だった。あなたにそばにいてほしいから。
あなたにずっと執着しているこんな僕から逃げたい?」
「……逃げたいとは思わないわ。嬉しいもの。私も……あなたが好きよ。」
アシュレイはマーガレットを抱きしめた。
アシュレイの気持ちを受け入れてくれるだけでなく、思いを返してくれる日がこんなに早く来るとは!
マーガレットは、アシュレイが自分以外の女性を抱くことを想像すると辛くなったと言った。
自分を抱くように別の女性を抱く。
マーガレットを抱くことはなくなり、そばにいることを望まれるだけ。
そんな将来が来るのではないかと不安に思っていたらしい。
父アーロンとは、包み込まれるような安心感のある結婚生活で穏やかな気持ちでいられた。
だがアシュレイとの結婚生活は、いつかこの幸せが無くなるのではないかという思いがつきまとい始めたという。
「アシュレイに抱かれていなければ、デイジーの世話も別の女性が子供を産んでも平気だったわ。」
つまり、それまで全く男として意識されていなかったということだ。
だが、アシュレイがマーガレットを性の対象として見ていると言ったことで意識が変わった。
結局、マーガレットにとってアシュレイは微妙な位置にいる存在だったのだ。
息子でもなく、弟でもない。
アーロンの妻にはなれても、18歳と10歳で親子になるのは難しい。呼び名もそうだった。
おそらく、マーガレットにアーロンとの子供が産まれていれば、もう少し家族になれていた。
デイジーの存在もそうだ。
アーロンが生きている時に産まれていれば、アーロンの孫はマーガレットの孫という意識になる。
しかし、この半年はマーガレットが母のようにデイジーを育ててきた。
そして淡々と子作りするのではなく、性欲を発散するといった感じでもなく、毎日のようにマーガレットを丁寧に抱くアシュレイを独占したいと思うのも当然のことだったのだ。
恋愛に年齢差など関係ない。そこに体の関係が加われば尚更だ。
特に女性は自分を求めてくれる男性に情がわきやすいのだ。
アシュレイはマーガレットの体だけでなく、心も手に入れたことに歓喜した。
思いの通じ合ったアシュレイとマーガレットは、再び幸せな日常を過ごし始めたとき、マーガレットが妊娠した。
誰にも害されることのないように屋敷に閉じこもり、やがて男の子を出産。この子が後の侯爵になる。
アシュレイの喜びとマーガレットへの溺愛ぶりに、令嬢たちは後妻になることを諦めた。
数十年が経ち、アシュレイはマーガレットの枕元にいた。
マーガレットは病気ではない。所謂、老衰でこの世を去ろうとしていた。
「私の最後にそばにいるのはあなた。言い続けたとおりね。」
「当然だ。僕が先に逝ったら、あなたの最後の男になれないかもしれない。あなたは魅力的だから。」
「ふふ。そんなことを言ってくれたのはあなた一人よ。幸せだったわ。」
「僕も幸せだった。すぐに追いかけるよ。」
「ええ。待ってるわ。」
マーガレットは眠るように旅立ち、見送ったアシュレイはマーガレットの体が冷たくなるまで寄り添い、自分もそのまま旅立った。
アシュレイは、ただただ気力で生きていただけで、マーガレットがいなくなったことで鼓動を止めた。
子供と孫、ひ孫たちは、アシュレイとマーガレットを同じ棺に入れたという。
アシュレイをマーガレットから離すことができなかったから……
<終わり>
410
お気に入りに追加
747
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。
ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。
同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。
しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。
だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。
立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
夢を現実にしないための正しいマニュアル
しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。
現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事?
処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。
婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。
誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ジュゼットは、兄から父が背負った借金の金額を聞いて絶望した。
しかも返済期日が迫っており、家族全員が危険な仕事や売られることを覚悟しなければならない。
そんな時、借金を払う代わりに仕事を依頼したいと声をかけられた。
ジュゼットは自分と家族の将来のためにその依頼を受けたが、当然口外できないようなことだった。
その仕事を終えて実家に帰るジュゼットは、もう幸せな結婚は望めないために一人で生きていく決心をしていたけれど求婚してくれる人がいたというお話です。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる