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しおりを挟むマーガレットは別邸に移り住み、これまでのことを思い返していた。
伯爵家の3女に生まれて、家族とも仲が良かった。兄1人に姉2人の4人兄妹。
子供の頃から本を読むことが好きで、将来は図書館か書店で働きたかった。
そう言い続けていると、『働きたいのなら結婚しなくてもいいよ』と両親は言ってくれて、婚約者を探すことはしなかった。
16歳で社交界デビューし、何度か夜会にも行ったけれどダンスに誘われないように壁際にいたり何か食べ物をつまんでいることが多かった。
図書館司書として働けることが決まり、あとは卒業を待つだけだったが、状況が変わった。
3年続いての長雨により、領地の作物が大打撃を受けて伯爵家の財政が厳しくなったのだ。
そんなとき、侯爵家からマーガレットに結婚の打診が来た。
伯爵家と領民への援助をする代わりに14歳年上の侯爵令息の後妻になってほしいとのことだった。
遠縁で格上の侯爵家からの打診は断りにくかった。
しかし、両親はマーガレットに断ってもいいと言った。
借金をすることになるが数年で返せるようになるから大丈夫だ、と。
でも、マーガレットは貴族令嬢として領民のために結婚の話を受けた。
司書になれなくても、本は読める。
まさか、読書もできないような生活を後妻に強いるような相手ではないだろうと思ったから。
アーロンと話したのは、婚姻届にサインをする日が初めてだった。
第一印象は『大人の男の人』だった。
優しく話しかけてくれて、照れたような顔がかわいいと思った。
アーロンのそんな姿に両親も安心して送り出してくれた。
事前の情報で、前妻との間に10歳の息子がいることは知っていた。
アーロンが侯爵位を継ぐためにパートナーとなる後妻を必要としていたと聞いていた。
なので、マーガレットが子供を産むかどうかはどちらでもいいと言われた。
アシュレイに引き合わされたとき、彼はもう母親を必要としていないことがわかった。
だが、何か期待のこもった目に変わった。受け入れてくれたのだと思った。
初夜は、こんな小娘を抱く気はあるのかと疑問に思いながら寝室に向かったが、アーロンは優しく抱いてくれた。
そして行為後、抱きしめながら謝られた。
マーガレットが後妻に選ばれたのは自分のせいだ、と。
アーロンは、夜会で何度か見かけるようになったマーガレットを何気なく見ていたそうだ。
前妻と違って穏やかそうで、笑顔が可愛くて、ダンスを避けている婚約者がいないであろう令嬢。
それを父である侯爵が目ざとく気づいてしまったのだ。
アーロンは父である侯爵に再婚するなら『穏やかな女性がいい』と告げていた。
マーガレットは条件にピッタリの令嬢だったのだ。
まさか、こんな年の離れたマーガレットを父が選ぶとは思っていなかったという。
『君を援助で買ったつもりはない。私が望んで妻にしたと思ってほしい』
アーロンはそう言ってくれた。いい人と結婚できたと思った。
翌日、アシュレイが一人で食べることが寂しそうだったことと、兄弟はいらないと言っていたことを使用人から聞いた私たちは、極力アシュレイと一緒に食事をすることと子供は作らないことを決めた。
それからは、毎日穏やかで楽しく過ごしていた。
アシュレイの婚約者であるビビアナは……ちょっと困った子だったけど、社交界で噂を信じている人はほとんどいない。
母親である公爵夫人が何か勘違いしていることはわかっていたが、格上の夫人であるために何もしなかった。
何もしなかったことが良くなかったのだろうか。
まさか、アーロンがビビアナと言い合いをして、階段から落ちてしまうなんて。
アシュレイがビビアナと離婚することになるのは仕方がないと思う。
侯爵家の誰もが彼女の言動を許せない。
だけど、お腹の子供のために。アシュレイの子供のためにマーガレットは別邸に来た。
ビビアナが出産した後は、また侯爵家へ。アシュレイがそう望んでくれるなら役に立ちたい。
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