6 / 13
6.
しおりを挟むまだ未熟なアシュレイが侯爵を継ぎ、落ち着いてビビアナとの今後についてマーガレットに話をすることができないまま、問題が起きた。
「アシュレイ様、マーガレット様が屋敷を出て行かれるそうです!」
「何?なぜだ。まだ父の喪中だぞ?」
「それが……ビビアナ様に言われたそうで。」
どうしてあの女はおとなしくしていないんだっ!
僕だけでなく、屋敷の使用人たちからしてもビビアナは父を殺した女も同然だ。
だが、父は命をかけて僕の子供を守ったのだという思いで我慢をして世話をしている。
そして、反省の欠片もなく言い訳しかしないビビアナには出産まで謹慎するように言い渡し、屋敷の隅の部屋に追いやって誰にも接触しないようにした。
なのに、夫を喪ったマーガレットに出て行けと言っただと?
いっそのこと、出産するまでビビアナを公爵家に置いてもらうことができれば良かったのに。
だがそうしてしまうと、産まれる子供がアシュレイの子供ではないかもしれないという疑いを示すことにもなりかねないのだ。その疑いは、一生付きまとうことになる。だから子供のために避けた。
それなのに……
アシュレイは、マーガレットの元へ駆けつけた。
「マーガレット様、ここにいてください。」
「アシュレイ……ビビアナ様が心穏やかにあなたの子供を産むには私は近くにいない方がいいわ。」
「もうあなたに絶対に近づけたりしません。」
「私の存在を感じるだけで彼女は不快なのよ。あなたの子供のためだからいいのよ。
ただ、喪中に実家に帰ると侯爵家が追い出したように見られてしまうわ。別邸を使ってもいいかしら。」
祖父母が数年前まで使っていた別邸なら近いか。
どうせならビビアナを別邸に追いやりたい。
だが、街に近い別邸ではビビアナをおとなしくさせておけない。
ここなら馬車を出さない限り、動けないのだから。
「わかりました。別邸を準備しますので明日まで待ってください。
それと、ビビアナとは出産後に離婚しますので彼女は出て行きます。
その後、あなたを迎えに行きますので、別邸から出て行かないでください。いいですね?」
「え?でも、喪が明けたら実家に帰った方がいいんじゃないかしら。いつまでも侯爵家でお世話になる理由がないわ?」
「産まれてくる子供には母親がいなくなります。父が守った僕の子供を、父の孫を一緒に育ててくれませんか?
僕は実母にいい思いがなくて人に関わることが嫌になっていました。本当は父が再婚したあなたに会うことからも逃げたかった。
だけど、初めてあなたに会った時、穏やかに微笑む姿にホッとした。一緒に過ごす時間を嬉しく思った。
僕が無関心で冷酷な人間にならずに済んだのは、あなたがいたからです。
これからもそばにいてほしいのです。」
夫を亡くしたばかりのあなたに告白することもできないし、自分もまだ結婚しているから受け入れてはもらえないことはわかっている。
子供をダシに使って引き留めようとしている狡さもわかっている。
だが、マーガレットを手に入れるためには何でも使おう。
「……そうね。アーロン様の孫でアシュレイの子供に寂しい思いはさせたくないわ。
あなたが再婚するまでなら。母親代わり、祖母としてかしら。そばにいさせてもらうわ。」
良かった。その言葉を忘れないでくれ。
194
お気に入りに追加
758
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち
玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。
蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。
王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

みんながまるくおさまった
しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。
婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。
姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。
それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。
もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。
カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる