ようやくあなたを手に入れた

しゃーりん

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まだ未熟なアシュレイが侯爵を継ぎ、落ち着いてビビアナとの今後についてマーガレットに話をすることができないまま、問題が起きた。


「アシュレイ様、マーガレット様が屋敷を出て行かれるそうです!」

「何?なぜだ。まだ父の喪中だぞ?」

「それが……ビビアナ様に言われたそうで。」 


どうしてあの女はおとなしくしていないんだっ!
僕だけでなく、屋敷の使用人たちからしてもビビアナは父を殺した女も同然だ。
だが、父は命をかけて僕の子供を守ったのだという思いで我慢をして世話をしている。

そして、反省の欠片もなく言い訳しかしないビビアナには出産まで謹慎するように言い渡し、屋敷の隅の部屋に追いやって誰にも接触しないようにした。

なのに、夫を喪ったマーガレットに出て行けと言っただと?

いっそのこと、出産するまでビビアナを公爵家に置いてもらうことができれば良かったのに。
だがそうしてしまうと、産まれる子供がアシュレイの子供ではないかもしれないという疑いを示すことにもなりかねないのだ。その疑いは、一生付きまとうことになる。だから子供のために避けた。

それなのに……
 

アシュレイは、マーガレットの元へ駆けつけた。


「マーガレット様、ここにいてください。」

「アシュレイ……ビビアナ様が心穏やかにあなたの子供を産むには私は近くにいない方がいいわ。」

「もうあなたに絶対に近づけたりしません。」

「私の存在を感じるだけで彼女は不快なのよ。あなたの子供のためだからいいのよ。
ただ、喪中に実家に帰ると侯爵家が追い出したように見られてしまうわ。別邸を使ってもいいかしら。」


祖父母が数年前まで使っていた別邸なら近いか。
どうせならビビアナを別邸に追いやりたい。
だが、街に近い別邸ではビビアナをおとなしくさせておけない。
ここなら馬車を出さない限り、動けないのだから。


「わかりました。別邸を準備しますので明日まで待ってください。
それと、ビビアナとは出産後に離婚しますので彼女は出て行きます。 
その後、あなたを迎えに行きますので、別邸から出て行かないでください。いいですね?」

「え?でも、喪が明けたら実家に帰った方がいいんじゃないかしら。いつまでも侯爵家でお世話になる理由がないわ?」

「産まれてくる子供には母親がいなくなります。父が守った僕の子供を、父の孫を一緒に育ててくれませんか?
僕は実母にいい思いがなくて人に関わることが嫌になっていました。本当は父が再婚したあなたに会うことからも逃げたかった。
だけど、初めてあなたに会った時、穏やかに微笑む姿にホッとした。一緒に過ごす時間を嬉しく思った。
僕が無関心で冷酷な人間にならずに済んだのは、あなたがいたからです。
これからもそばにいてほしいのです。」


夫を亡くしたばかりのあなたに告白することもできないし、自分もまだ結婚しているから受け入れてはもらえないことはわかっている。
子供をダシに使って引き留めようとしている狡さもわかっている。

だが、マーガレットを手に入れるためには何でも使おう。


「……そうね。アーロン様の孫でアシュレイの子供に寂しい思いはさせたくないわ。
あなたが再婚するまでなら。母親代わり、祖母としてかしら。そばにいさせてもらうわ。」


良かった。その言葉を忘れないでくれ。


 





 
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