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しおりを挟む父とマーガレットの仲は良い。
社交界でも穏やかなマーガレットの評判は悪くなく、むしろ父アーロンの前妻より付き合いやすいと密かに人気がある。
密かである理由は、ビビアナの母である公爵夫人がマーガレットの名前を耳にすることを嫌がるからである。
マーガレットについてでっち上げたことを公爵夫人が娘であるビビアナに話すため、それを信じているビビアナが友人たちに言いふらすが、アシュレイがデマばかりだと相手にしていないこともあってほとんど信じられていない。
だが、公爵夫人と公爵令嬢を相手に誰も大っぴらに苦言を言うことはできなかった。
「すまない、マーガレット。君は何も悪くないのに。」
「大丈夫ですよ、アーロン様。ほとんどの方が事実ではないとわかって下さっています。」
「僕も何度もビビアナ嬢に婚約解消をお願いしたのですが受け入れてもらえず、申し訳ありません。」
「まあ、アシュレイ。私のせいで婚約を解消などしてはダメよ。でも気持ちは嬉しいわ。ありがとう。」
謝るアーロンとアシュレイに、マーガレットは気にしていないと微笑む。
だが、マーガレットの次の言葉にアシュレイは焦った。
「ビビアナ様が嫁いで来られたとき、私が同じ屋敷にいたら嫌かもしれないわね。どこか別の場所に移った方がいいかしら?」
「だったら二人で別の屋敷に移ろうか。ここは若い二人に譲って。」
とんでもない!ビビアナと二人きりにするのはやめてくれ。
マーガレットに会えなくなると心が癒されなくなる。
「それは困ります。仕事をするにも効率が悪くなるし。まずは様子見にしましょう。
一緒に暮らせば、彼女も自分の思い違いに気づくかもしれないし。」
「それもそうだな。ビビアナ嬢は母親の影響を受け過ぎている。自分の目で見定めることも必要だな。アシュレイの実母ほど苛烈ではないようだから、態度を改めるかもしれないし。それでいいか?マーガレット。」
「ええ。そうね。彼女の家はここになるのですもの。分かり合う時間はたっぷりあるわね。」
マーガレットはビビアナと分かり合えると思っているのか。
アシュレイはそれは難しいだろうとわかっている。
なぜなら、アシュレイの気持ちがビビアナにないから。
妻より義母を庇えば、義母を敵視することが目に見えている。
それがわかっていても、アシュレイが妻となるビビアナ側につくことはないだろう。
アシュレイとビビアナが学園を卒業し、結婚式を終えた。
そしてその夜、アシュレイはビビアナを抱いた。
彼女が妊娠したら、もう二度と彼女を抱く気はない。
侯爵家の跡継ぎのためだけの行為だ。
結婚前にアシュレイは、父アーロンから聞いていた。
どんな気持ちでアシュレイの実母を抱いたのかを。
父も今のアシュレイ同様、妻に好意を抱けなかったはずだったから。
すると父は言った。
『妻以外の女性との快感を思い出して気持ちを奮い立たせた』
父は結婚前に、高級娼婦を抱いて発散していたらしい。
アシュレイの実母は父よりも3歳年下で、父の卒業から結婚までの間に誘惑が多くあったという。
浮気で婚約破棄することも考えたが、身勝手なことができずに娼婦に相手を頼んでいた。
その経験が無ければ妻相手に勃ったどうかも怪しかったという。
そして妊娠しやすい期間しか抱かなかった。
実母は不満そうだったが、すぐにアシュレイを妊娠したのだ。
それ以来、離婚するまで一度も実母を抱くことはなかったという。
アシュレイもビビアナ相手に同じことをしようと考えていた。
ただし、アシュレイの気持ちを奮い立たせるのはマーガレットへの劣情だということは秘密だ。
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