上 下
3 / 9

3.

しおりを挟む
 
 
夕方、ユラは目を覚ました。
見回すと、自分が使わせてもらっている部屋のようで朝?夜?と頭が働いていなかった。
しかし、ふと直前の記憶が蘇り顔が熱くなった。

(夢?じゃないわよね?あ、あんなトコを…舐められたわ)

しかし、その後の記憶はない。ベッドから体を起こしても違和感もなかった。
助けてくれた人はユラの純潔を奪うようなことはしなかったとホッとした。

(快感を感じたから媚薬の症状が治まったのね。…あれが快感なのね)

熱くなった頬を押さえていると、侍女のミミが気づいた。

「ユラ様!お目覚めになられたのですね。体調はいかがですか?」

「大丈夫よ。…途中から意識がないのだけれど閉じ込められたところを見つけてもらえたようね。」

「はい。私が庭園に戻るとユラ様がいらっしゃらなくて…衛兵が侍女と歩いて行ったと。
 お部屋にも戻られてなかったので、王太子様のところか王妃様のところだと思ったのです。
 ですが、確認しても来られていないと言うことで、事態を重くみた陛下が捜索の指示を。」

「…そう。皆様にご迷惑をお掛けしてしまったのね。」

「申し訳ございません。私がおそばを離れたせいです。」

「違うわ。たまたま一人になったところを狙われたのよ。
 一緒にいたら、ミミも危害を加えられたか別のところに閉じ込められたわ。
 今日のことは、計画的だったと思うから。」
 
「初めからユラ様を穢すことが目的だったのですか?」

「媚薬を飲ませたのですもの。単なる醜聞にする気がない悪意を感じるわ。
 …私を助けてくれた方は偶然通った時に巻き込まれたのよね?
 お礼を言いたいわ。王城勤務の方よね?どこかで見たことがあるわ。誰か知ってる?」

「王太子様がそのことでお話があるとのことでした。
 お目覚めになったことを伝えてもらいますね。
 その間に入浴されますか?」

「そうね。そうしようかしら。」

ミミは部屋の前にいた者に伝言を伝え、入浴の準備を始めた。




入浴を終え、くつろいでいたところに王太子が部屋を訪れた。

「ユラ、大丈夫か?」

「はい、ライアン様。ご迷惑をおかけいたしました。」

「いや、こちらの失態だ。王宮でこんなことをしでかす者がいたとは。
 ユラをあの場所まで誘導した侍女は顔見知りか?」

「いいえ、知らない方でした。ライアン様のお呼びだと言われて信じてしまいました。」

「そうか…父は誘拐も疑い捜索を指示したため、お前が行方不明だったことを知る者は多い。
 だが、うっかり図書室の死角でうたた寝をしていたことになっている。
 あの部屋の上が図書室だからな。 
 発見した騎士たちには口外禁止を言い渡しているから他は誰も知らない。
 だから、あの部屋で起こったことは何もなかった。それでいいな?」

「…醜聞を避けるためですものね。わかりました。
 ですが、助けて下さった方にお礼を言いたいのですが。」

「いや、直接会わない方がいいだろう。普段、会わない者との接触は憶測を呼ぶ。
 あの者は来年結婚するんだ。婚約者に誤解されると困るだろう。」

「…婚約者が…そうですか。既婚者の方でも不思議ではありませんでしたものね。
 ではお手紙で…いえ、ご迷惑になりますね。
 ライアン様からお伝えいただけますか?『助けていただいて感謝している』と。」

「ああ、伝えておく。今日のことは忘れろ。何もなかったんだ。
 犯人は必ず見つける。
 それから、すまないが外だけでなく王宮内でも護衛をつける。一人にはなるな。」

「わかりました。」


王太子が部屋を出ていき、ユラは溜息をついた。
婚約者…か。何故か落胆していた。




  
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話

七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。 離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?

婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど

藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。 物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。 三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。 他サイトでも掲載中

初めての相手が陛下で良かった

ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。 ※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
18歳の誕生日を迎える数日前に、嫁いでいた異母姉妹の姉クラリッサが自国に出戻った。それを出迎えるのは、オレーリアの婚約者である騎士団長のアシュトンだった。その姿を目撃してしまい、王城に自分の居場所がないと再確認する。  魔法塔に認められた魔法使いのオレーリアは末姫として常に悪役のレッテルを貼られてした。魔法術式による功績を重ねても、全ては自分の手柄にしたと言われ誰も守ってくれなかった。  つねに姉クラリッサに意地悪をするように王妃と宰相に仕組まれ、婚約者の心離れを再確認して国を出る覚悟を決めて、婚約者のアシュトンに別れを告げようとするが──? ※R15は保険です。 ※騎士団長ヒーロー企画に参加しています。

処理中です...