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伯爵はすぐに隣国の辺境まで人を遣った。

辺境伯の屋敷近くの街だ。逃げていなければ見つかるだろう。
本当は今すぐにでも自分たちが行きたかったが、伯爵が隣国に行くとなると手続きに手間取る。
貴族と平民でも出国の手続きは違うが、当主か令息令嬢かでまた違う。
当主がお忍びで出国すると問題が発生した場合、国にも迷惑をかけることになる。 
なので、ナターシャのことをよく知っている者たちをつけた。
分かれて探せば見つかるはずだ。


それにしても、まだ隣国にいたのか。


2年前、ナターシャは隣国に嫁いだ姉サリーが出産したということで会いに行った。
そして、その帰りに行方不明になった。
隣国は出国して記録があったので、こちらの国でばかり捜索していたのだ。

それに、ナターシャが行方不明直後にサリーと産まれた娘カーラが流行り病で亡くなったという。
ひょっとして、ナターシャも途中で流行り病で倒れたのではないかと探した。
身元不明の遺体がないかまで探した。でも見つからなかった。
攫われて娼館に売られたのかと思い娼館も調べたし、裏ルートで売られる女性がいると聞き、業者の摘発にも協力したが、ナターシャらしき人物は誰も知らなかった。


それでも探し続けてきた。
 

ナターシャ、どうしてだ?無事だと知らせてくれれば良かったのに。
好きな人ができたのか?
マロウの浮気を知っていたからか?
あんな男だと知らなかった。マロウの父親が真面目だからといって信用するんじゃなかった。
平民として暮らしたいなら、それでもいい。
元気な顔を見せてほしい。


それにしても、マロウはどうしてすぐに知らせなかったんだ。
今まで連絡してこなかったのに、マロウに見つかったからといって連絡するとは限らないだろう?
それどころか、逃げる可能性だってあるんだ。
どうして護衛の一人でも残してこなかったんだ?

子供がいたことで、婿になれないことが頭にきて碌に会話もなく帰ってきたんだろう。
連れて帰るのは無理でも、住んでる場所や一緒にいる者を知ることもしなかった。
短気な男だ。

もっと早く、マロウとの婚約を解消しておくべきだった。

まあ、それでもナターシャの手がかりを見つけてくれたんだ。許そう。


頼むから、まだそこにいてくれ。




 

隣国の辺境伯領を訪れた伯爵家の使用人たちは、すぐさま手分けしてナターシャの情報を求めた。

すると、大通りの店付近で証言を得られた。


「ええ。ナターシャという女性を探しに来る人がいれば、辺境伯のお屋敷まで連絡を、と。」

「そうそう。びっくりしたわよね。いきなり男がその女性の頬を叩いて怒鳴って去っていったの。
 女性は驚いて、何も言う隙はなかったって感じだったわね。」

「辺境伯のお屋敷で侍女をなさってる女性よね?ナターシャじゃなかった気がするけど。」


つまり、ナターシャは名前を変えて、辺境伯のお屋敷で侍女をしているのではないか。

使用人たちは会って確認しなければならないと、辺境伯のお屋敷へと向かった。
 

しかし、男が叩いて怒鳴って去っていった?マロウのことだろうが、怒りが沸く。

使用人たちは改めてあの男が嫌いになった。

 

  
 
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