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贈り物について追及したいアンネットの意図に気づいたのか、国王陛下がシューベルに聞いた。


「シューベルよ、お前は先ほどその女にドレスとアクセサリーを贈ったと言ったな。
 先ほどまで婚約者であったアンネット嬢ではない女性に贈ったというのは問題発言だ。
 しかも、まさかその費用、公費を使ってはいまいだろうな?」
 

シューベルには王子として、婚約者のために使用できる公費が割り当てられている。
アンネットに贈る物や交流での費用は公費を使用できるが、それ以外の私的なことには使えない。 


「あ……いや、えーっと?……どうだったかな?多分、私費だったような?
 いや、うっかり公費と間違ってしまった可能性があります。後ほど、至急確認します。」

「言っておくが、公費を私的に使うのは横領だ。ここ数年分を精査させることにする。」
 

シューベルの顔色は悪くなった。
この2年半ほど、ハナミアに贈った物全てが私費ではなく公費を使っていたからだ。



アンネットは追い込むように話を続ける。


「シューベル様、ハナミアから私がどんな虐めをしたと聞きましたか?」

「……一緒に食事をすることを許してもらえない、ワザと落としたパンを食べさせられる。
 汚れた床を拭くように言われ、持っていた私物を奪われる。
 湯を使うことを禁じられ、洗濯も自分でするように言われる。
 課題をさせられる、領地に関する仕事を押し付ける。
 ……他にもいろいろあったけど、そんなことだ。」

「では、私の手をご覧ください。」


アンネットは、手袋を外して荒れた手をシューベルに見せた。侯爵令嬢の手とは思えない。
驚いたシューべルは、少しずつ自分から離れていたハナミアの手を掴んで手袋を外し、手を確認した。
ハナミアの手は、指先まで手入れを受けている綺麗な手だった。


「シューベル様がハナミアから聞いた虐めは私がされていたことです。
 3年前、母が亡くなってすぐに父は再婚しました。
 継母は私の味方をする使用人を全て解雇し、別宅にいた時の使用人を連れてきました。
 私には侍女もつかなくなりました。
 自分のことは自分でするようになり、口答えすると継母にもハナミアにも叩かれて蹴られます。
 食事を抜きすぎると侯爵家の仕事にも影響が出るので、パンと具なしスープが定番になりました。
 私の部屋もアクセサリーもドレスも、全て継母とハナミアに奪われました。
 この3年、私が寝ていた場所は地下にある食糧庫の隣です。」
 

アンネットの発言に、周りはどよめいた。
父は口を挟むことができずに歯を食いしばってアンネットを睨んでいる。
シューベルは小刻みに首を横に振っている。アンネットの言葉を受け入れたくないようだった。


シューベルは婚約者として月に一度、侯爵家に来てアンネットと交流を持っていた。
しかし、3年前にハナミアたちが一緒に暮らすようになってから、その半年後には交流の相手がハナミアに代わっていたのだ。

シューベルが屋敷に来ても、誰もアンネットに知らせなくなったから当然だった。

ハナミアから嘘を吹き込まれ続けたシューベルは、学園でしか会わなくなったアンネットに同級生の前で暴言を吐き続けた。

そして翌年入学したハナミアと学園で自分たちの仲を見せつけ始めたのだ。


 







 
 
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