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2.
しおりを挟むアンネットがシューベルの婚約者になって6年、2年半ほど前から彼から冷遇され始めたけれど、それまでは可もなく不可もなくといった関係だった。
国王陛下に決められた政略結婚だったから。
第四王子であるシューベルは三人の兄に比べて出来が悪いこともあり、侯爵家の婿になるはずだった。
父親としてシューベルにとって最良の縁組を用意したのだが、彼には不服だったらしい。
「シューベル様、ここ何年か私の言葉に耳を傾けて下さることはありませんでしたね。
ですが、これが最後ですので聞いていただきたいのです。」
「……わかった。何が言いたいのかはわからんが、婚約破棄は決定だからな。」
「それは承知しております。
シューベル様、私の姿をご覧になってどう思われますか?」
ここしばらく、じっくりとアンネットを見たことがなかったシューベルはまじまじと見て言った。
「どうって……みすぼらしいな。王子の婚約者なんだから綺麗にしろよ。」
「みすぼらしい。そうですよね。
髪には艶がなく、厚化粧で顔色を誤魔化し、顔も体も痩せこけています。
ドレスも随分と古く、アクセサリーもない。
昔からそうでしたか?」
「……いや、この2,3年か?学園入学前までは普通だったよな。
ハナミアみたいに綺麗にしろよ。
彼女は俺が贈ったドレスもアクセサリーもとても似合っている。」
ハナミアを見てニヤけているシューベルはそれが問題発言だと気づいていないようだった。
でも、アンネットはひとまず先に言葉を進めた。
「ではシューベル様から見て、私とハナミアではどちらが虐められているように見えますか?」
「それ……は……」
艶のある髪にふっくらした頬、血色の良い肌をしているハナミアとアンネットを見比べてシューベルは戸惑っていた。
外見から判断すると、どう見ても虐められているのはアンネットだからだ。
「私はこの約3年、硬いパンと具のない冷めたスープしか家では食べられません。
痩せこけて肌に張りはなく、髪に艶がなくなるのも当然だと思います。」
そう告げたアンネットの腕を掴んだ者がいた。
アンネットの父だった。
彼はそのままアンネットの頬を叩いた。
「国王陛下、この嘘つきには我慢なりません。侯爵家の籍から抜き、叩き出します。」
そう言った父に、国王陛下が告げた。
「今はアンネット嬢が話しているのだ。お前は口出しせずにおとなしくしておれ。
次に邪魔をすると捕らえるぞ。」
国王陛下の言葉に、父は悔しそうに引き下がった。
「今、御覧になった通り、父にはよく叩かれます。
3年前、母が亡くなり父が再婚してからずっとです。
私が厚化粧なのは叩かれた痣を隠すため。
袖が長く古めかしいドレスなのも体中の痣を隠すためです。
まぁ、流行のドレスを買ってくれるはずもありませんし、母のドレスは継母が捨てましたし。
残っていたのはこのドレスも含めて祖母が40歳代で着ていたドレスだけですし。
それに、婚約者であったはずのあなたは私ではなくハナミアにドレスを贈ったようですし?」
ここで、先ほどはスルーしたドレスの話に戻した。
周りも疑問に思ったはずの発言。
シューベルは婚約者であったアンネットではなく、ハナミアにドレスとアクセサリーを贈ったと言ったのだ。
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