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しおりを挟む学園を卒業した、その夜に開かれる卒業パーティー。
王城で開かれるそのパーティーを、アンネット・ボールド侯爵令嬢は待ち望んでいた。
国王陛下の祝いの言葉、パーティーの始まりが告げられると、それはすぐに始まった。
アンネットの予想では、事が起こるとするなら最高潮にパーティーが盛り上がっている時ではないかと思っていたのに、それまでの時間も待てなかったようだ。
「国王陛下、いえ、父上、息子であるこのシューベルにこの場を私的に利用する許可を頂きたい。」
「……よいぞ。」
国王陛下は自身の四番目の息子であるシューベルに許可を出した。
国王の許可が出たため、シューベルは卒業生とその親、親戚、婚約者などの視線を引き付けたまま、一人の女性を壇上に上げた。
それは、アンネットの異母妹ハナミア。
彼女は卒業生ではなく、一つ下の学年。
実際には異母妹ではなく、異母姉。アンネットよりも少し早く産まれている。
3年前、アンネットの母が亡くなってすぐに父は継母と入籍し、異母姉ハナミアも侯爵家で暮らし始めた。
しかし、新年度は始まっていたし、学園に通うには学力もマナーも足りなかったために1年遅らせた。
そのことで、ハナミアが姉ではなく妹だと認識されているのだ。
父にとっても、正妻が産んだアンネットよりも先に愛人の子供が産まれているのは都合が悪く、周りの誤認を否定することもなかった。
シューベルはそのハナミアの肩を抱いたまま、アンネットに言った。
「アンネット・ボールド。お前との婚約を破棄する!
ここにいる、お前の妹であるハナミアが家でお前から虐められていると何度も聞いている。
そんな女と結婚することなどできない!
私は勇気ある証言をしたハナミアを婚約者とすることに決めた!」
「……婚約破棄、承りました。」
淡々と受け入れたアンネットが気に食わなかったのか、更に怒りを込めてシューベルは言ってきた。
「家族内の悪質な虐待は処罰の対象になる。衛兵!アンネットを捕らえろ!」
しかし、衛兵たちは動かない。
この場には国王陛下がいる。第四王子の命令には従わないのだ。
「シューベルよ。お前が衛兵を勝手に使うことは許さん。
何をもってアンネット嬢が虐待をしていたとする?証拠はあるのか?」
国王陛下の言葉にシューベルは答えた。
「ハナミアが証言しているのです。それで十分ではないですか。」
国王陛下と一部の親たちは呆れた様子だった。
「アンネット嬢、妹を虐めたのか?」
「いいえ、虐めておりません。」
アンネットがそう答えると、国王陛下はシューベルに言った。
「アンネット嬢は虐めていないと言っている。私はアンネット嬢の言葉を信じるぞ?
どうだ?そちら側とこちら側、どちらが正しいかわからんではないか。」
そこに、慌てて父と継母がやってきた。
「国王陛下に申し上げます。父親である私も証言します。
アンネットはハナミアを虐めています。」
「ええ、ええ。私も証言いたします。」
シューベルは味方が増えて自信満々に国王陛下に言った。
「どうです?証言者が増えました。使用人に聞けばもっと増えるでしょう。」
「………それはどうだろうな。アンネット嬢、言うことはあるか?」
「父上!アンネットの言葉など嘘に決まっています。聞く必要はありません。
そんな嘘つき女とではなく、私はハナミアと共に侯爵家を守っていく覚悟です。」
アンネットが国王陛下の問いに答える前にシューベルがそう言った。
国王陛下はシューベルを気にすることなくアンネットに視線を向けて促した。
アンネットはこの機会を逃す気はなかった。
待ちに待った反撃開始の合図なのだから。
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