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しおりを挟む伯爵家に戻り、ライザは受け入れられたようだった。
僕はさすがにその中に入ることはできず、帰宅した。
落ち着いた頃に、ライザの両親にはライザと交流をする許可を取りに行くことにした。
僕の両親にも、ライザがアデラインにされた仕打ちを伝えた。
「侯爵も許せない男だが、その妻もとんでもない女だな。
貴族の令嬢が10年も下働きか。
いろいろと出来事が重なった後だったから、修道院で静かに暮らしているものだと思ったよ。」
「ええ、本当に。気の毒ね。」
「それで、ライザの両親にライザに会う許可をもらおうと思うのです。
大っぴらに訪れるつもりはありません。いいですか?」
「……まぁ、仕方ないだろう。ウォーカーが頼りになる子でよかったな。
だが、あの家に本当にバリーの手の者はいないのか?」
「10年経って、バリーが今でもライザを求めているかはわかりません。
油断はできないでしょうが、アデラインはこのことを言っていないのではないかと思います。
さすがに伯爵邸からライザが消えればバリーの仕業だと明らかですし、醜聞になります。」
「そうだな。今は侯爵だ。愚かな真似は避けると思いたいな。」
1週間後、僕は約束した時間にライザの家を訪れた。
今の伯爵はライザの兄だ。ライザを迎えに行く前、両親は領地へと向かう直前だったようだ。
ライザの兄が両親にあらかじめ僕がライザと交流したいということを伝えていたようだ。
難色を示された。
「ライザがもう少し元気になれば、領地へ連れて行こうと思ってるんだ。
王都にいるのは、いろいろと騒がしいしのんびりと過ごせない。」
「領地へ……ライザも望んでいるのですか?」
「ああ。久しぶりに行きたいと言っている。
それに君も3年は家を出られないんだろう?
その間にどうするか、頻繁に会うことはできないが手紙のやり取りは許すから決めればいい。」
「ありがとうございます。」
「ああ。でも、ライザも領地で出会いがあるかもしれない。その時は許してやってくれ。」
「……はい。会いに行くことも許可してもらえますか?」
「ああ。ライザがいいと言えばな。事前に手紙で知らせてくれよ?」
「わかりました。」
ライザが王都にいる間に数回会った。
荒れた手や肌、髪が手入れされ、少しふっくらしたライザは両親と領地へと旅立っていった。
それから2年、僕とライザは手紙のやり取り、年に数回、会いに行き楽しく過ごしていた。
ライザの様子がおかしくなったのは、それからすぐだった。
きっかけは、バリーが半身不随になったと知ったことだった。
詳細は伝わっていないが、どうせ女絡みなのではないかというのが社交界の噂。
ライザの両親も、この2年、バリーのことは一切話をしていなかった。
だが、現伯爵であるライザの兄からの手紙で、バリーの状態を知ってライザに伝えた。
伯爵は、バリーがもうライザを追ってくることはないと安心させるつもりだったようだ。
ライザもホッとして、その時は問題なかった。
おかしいと気づいたのは翌朝だった。
ライザは自分がヒューイットの愛人だと思っていた。
ヒューイットの子供を産めば、ずっと一緒にいられる。
だから子供を産まなければならない。
そう言っているそうだ。
領地でヒューイットを待っていても遠いからあまり会えない。
妊娠できないのはそのためだ。だから王都に行きたい。
そう言っているライザを止めることができない。
王都へ向かうからライザに会ってみてほしい。
ライザの父からの手紙にはそう書かれていた。
僕も両親に伝えた。
ライザがそう思い込んだまま治らない場合は、領地へ行って一緒に暮らしたい、と。
ウォーカーの卒業まであと4か月。だがそれを待てないと思った。
その時は、領地の屋敷で暮らせと許してくれた。
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