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しおりを挟むアデラインのしたことを聞いたライザは、それでも取り乱すことなく言った。
「そう。そういうことだったのね。何か変だと思ったの。」
ライザは修道院に入ることになった経緯を話してくれた。
ほぼ、アデラインが語ったことと同じだった。
子供は侯爵家でバリーの庶子として引き取ることを決めたからアデラインが迎えに来たと言った。
ライザがバリーの愛人になるなら、家を用意するつもりだとも。
だけど、ライザは愛人になることは望んでいない。バリーには襲われたのだと告げた。
アデラインは、ライザが愛人になることを望まなかった時のために修道院に避難する馬車も用意していた。
愛人を断ったと知ったら、バリーは今晩にも伯爵家の使用人に命令してライザを眠らせてさらうだろう。
逃げるなら今しかないとアデラインが言った。
ライザもバリーへの恐怖から、馬車で逃げることを選んだ。
アデラインは、ひと月避難している間にライザの両親が隠れ家を探すだろうと言った。
その間の寄付金も馬車に置いてあった。
修道院では何もしなくてよかったが、質素な暮らしをひと月間送った。
手紙を書いても送ってもらえず、外の様子が全くわからなかった。
やがて、アデラインから手紙が届いた。
実家からの絶縁状も入っていた。
手紙には、実家はライザと縁を切ることを望んだ。そのため修道院から出られない。
つまり、寄付金もないしライザは平民になるということが書かれていた。
絶縁状にサインをして届け出るようにとも書いてあった。
「だけど、手紙は送れないし、あそこから出ることも許してもらえなかった。
だから、絶縁状は持ったままだったの。
どうしたらいいのかな?って思ってたけど、両親が勝手に手続きを済ませるかと思って。
それからは毎日忙しくて、何も考えたくなかった。」
「そういうことか。
アデラインは手紙を送れないように指示していたから絶縁の手続きができてなかったんだ。」
この国では、絶縁する方法は2つ。
1つは、罪を犯した身内を戸籍から外す。これは本人の同意なくできる。
もう1つは、双方が望んで戸籍から外す。ライザたちはこちらだった。
両親のサインが入った絶縁状をライザがサインしてから届け出る予定だったのに送れなかったのだ。
「……あの修道院がバリーの領地にあるものだと知っていたか?」
「少ししてから知った。初めは怖かった。
だけどいつも代理が来るし、下働きは出ていかないもの。」
「そうか。ずっと怯えていたわけじゃないのなら良かった。
だけど……こんなに痩せて。手も傷だらけだ。
修道院で穏やかに過ごしているか、修道院を出て平民として暮らしているのかと思ってた。
本当に遅くなってごめんな。」
「……お兄様。私、これからどうすれば……」
「それはゆっくり考えよう。焦らなくていい。」
「うん。……ヒューはどうして一緒に?手紙も送ろうとしてくれてたって。」
ずっと泣いている僕にライザが声をかけてくれた。
「僕が親に監禁されている間にライザは実家に戻って修道院に行ってた。
親には勝手に再婚相手まで用意されていた。
そんな時、アデラインに会ったんだ。
彼女ならライザがいる修道院を知っているかもしれないと思って。
修道院を手配したのが彼女だと知って、場所は教えられないけど手紙を送ってくれると言われて。
ライザを迎えに行くには、跡継ぎを育ててからでないと無理だろうとアデラインに言われたんだ。
だから養子を貰って……数年で育てられる15歳くらいが良かったのに両親は5歳の子を……
10年経ってようやく子供が15歳になった。
あと3年、あの子が学園を卒業すればライザと領地で暮らしてもいいって父が言うんだ。
どうかな?」
「どうかなって……
その前にお前がライザを迎えに行くのに時間がかかるようにしたのがあの女だと気付いてるか?
跡継ぎを育ててから迎えに行けってことは何年も迎えに行けないようにしたんだよ。」
「あ……そっか。そういうことか。ごめん、ライザ。」
「……ヒューは私を迎えに来てくれようとしていたのね。再婚相手は?」
「不能だと言って抱かなかったら、執事見習いと浮気したから離婚した。」
「……3年後、どうするかはまだわからない。ゆっくり考えたいわ。」
「うん。会いに行くのはいいかな?」
「両親が許すなら。」
とりあえず拒否されなかったことに僕はホッとしていた。
だけど、平気そうに見えたライザの心は不安定だった。
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