5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん

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エメット公爵家の次女として生まれた私、ルナセアラは優しい両親と姉がいるわ。 

物心ついた頃から、姉ミルフィーナと私は多分、おっとりとした性格だったと思うの。

優しい環境に包まれて、姉と喧嘩をして泣いたこともなかった。

負の感情とは無縁の暮らしをしていたのね。


今思えばそれは、姉と誕生日が1日違いだということも関係していたかもしれない。

姉に与えられる物と同じものを、与えられていたから。

姉と誕生日が離れていたら『私もあれが欲しい』と我が儘を言うことがあったかもしれない。
『今度の誕生日にね』そう言われて我慢して楽しみにするということを覚えたかもしれない。

だけど、そんな感情を抱くことなく12歳まで成長してしまったの。


そしてようやく、姉と違うものが与えられる歳になったと感じたのはオリバー殿下の婚約者候補の話があったとき。

婚約者、結婚相手は同じものを与えることができないわ。

姉が嫌がったから、私がオリバー殿下の婚約者になるのね。そう思った途端、姉はパトリック様という侯爵家の方と結婚したいと言い出して、それなら私がエメット公爵家を継がなければならないとなったの。

姉が継ぐものだと思っていたから驚いたけど、別に構わないと思ったわ。

それよりも、姉に好きな人がいたことに驚いたから。

パトリック様は私も一度離れたところから見たことがある。とてもキラキラした人。

その時は、そう思っただけだったわ。


姉の14歳の誕生日、私の13歳の誕生日パーティーで、パトリック様に公開求婚を望んだと聞いて驚いたわ。

『お姉様、そんなことを望む人だったかしら?』と不思議に思った。 

しかも、なぜか断ってるし?『また来年』ってなに?!
 
両親も私も驚いたわ。何してるの?って。

そうしたら、姉が『求婚は赤い薔薇でしょ?』って。両親と脱力したわ。

姉が部屋に戻った後、母が言ったの。

『あの子、大好きな絵本の影響を受けているのね』って。

どんな話かを聞いて思い出したわ。私も何度か読んだことがある。
図書室にあった本は、いつの間にか姉の部屋にずっと置いてあるんだって。

金髪碧眼の王子様が大勢の人の前で赤い薔薇の花束を手に求婚するの。 
 
まさか、14歳にもなって絵本の影響を受けてるなんて……唖然としたわ。
 

翌日になって、婚約をどうするのか話し合いにパトリック様とご両親が来られたの。

姉はあんなことを言っていたけれど、婚約は交わすだろうなって思っていたわ。

それなのに、パトリック様と顔を合わせるのが気まずいのか、姉は私に頼んできたの。

『求婚は赤い薔薇がいいって伝えてきて』って。 

私が?!

なんだか、今までの姉と別人になってしまったように感じたわ。
 

パトリック様が待っている庭園の四阿に向かったわ。

ドキドキした。だって、1対1で男の人と話をしたことがなかったから。

パトリック様は笑顔で私を受け入れてくれて、誕生日プレゼントまで贈ってくれたの。


すごく、すごく素敵な人。あの人が義兄になってくれるなんて!

そう思って喜んでいたわ。
 

 
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