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しおりを挟むオリバーは結婚式の数日前、ミルフィーナを薔薇の庭園へと連れて行った。
少しの間だけ貸切にしてもらい、薔薇のアーチの下でミルフィーナに求婚した。
「ミルフィーナ嬢、私と結婚していただけますか?」
ミルフィーナは驚いていた。もう婚約はしており結婚式は数日後だ。
なぜ、今更求婚するのだろうかと思わないはずがない。
だが、パトリックの求婚を4度断ってきた彼女に、自分がされる5度目の求婚を受けてほしかった。
あの時、受けるはずだった5度目の求婚を。
「……はい。私はオリバー様との結婚を望みます。」
真っ赤な顔をしたミルフィーナは、ようやく求婚を受ける返事をすることができたのだ。
オリバーはミルフィーナを抱きしめた。
観客はいない。回りは薔薇だらけだが花束は用意していない。婚約指輪はとっくに渡している。
何一つ、絵本の通りではないが、それでも彼女には笑顔で求婚を受けたという事実が残る。
それで、オリバーも満足を得たから。
第二王子殿下オリバーはエメット公爵令嬢ミルフィーナとの結婚式を迎えた。
今日を以って、王子ではなくなる。
ミルフィーナはお姫様になることを望んでいたわけではないので構わないだろうが。
オリバーとしては肩の荷を下ろした気分だった。
5歳上の兄は次期国王として早くから期待されていた。
そんな兄を尊敬していたが、周りから比較されることが嫌だった。
『王太子殿下はもっと早くできましたよ。大丈夫です。オリバー殿下ならできます』
兄より出来が良ければ、それもまた問題にならないか?
オリバーは適度に手を抜くようになった。
怒られない程度に、様子を伺いながら。
オリバーが人間観察をするようになったのはその頃からだ。
婚約者候補になった令嬢の中には、オリバーを足掛かりに兄の妃を狙うような者もいた。
オリバーに、国王になる気はないのかと遠回しに聞いてくる者もいた。
その中で、最初の婚約者はオリバー自身を見てくれたから選んだのだ。
彼女が顔の病跡を誰にも見せたくないのであれば、社交界に出ずに田舎でのんびり暮らすのもいいと思ったが、やはり周りも彼女自身もそれを許してくれなかった。
そして次に婚約者になったミルフィーナ。
彼女は何とも不器用な性格をした令嬢だった。
公爵令嬢の仮面を脱いだ素の彼女は可愛らしく、面白い令嬢だった。
そんな彼女と結婚すると、楽しい毎日が待っている。
そう思いながらの結婚式は自然と笑顔になっていた。
ミルフィーナはやはり公爵令嬢の仮面を被っての式を望んだ。
素の自分ではオロオロしてしまい、そんな姿を周りに見せるわけにはいかないと頑なだった。
わからなくもない。それがミルフィーナなのだから。
だが、誓いのキスの時、少し『ポッ』としたのは素が出たのだろう。可愛かった。
ちなみに何度も練習した。倒れたら困るから。
いずれ慣れて、キスにも恥ずかしがらなくなるだろう。
でも、この誓いのキスの『ポッ』とした顔は忘れない。
これは自分だけのものだとオリバーは目の裏に焼きつけた。
初夜は、まあ、うん。時間をかけて丁寧にやりすぎて失神寸前だった気もするが、無事に済んだ。
ただ、2回目は5日間も空けられたが。仕方がない。
愛しいという感情を強く抱くようになった妻への観察はやめられない。
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