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しおりを挟むオリバーとミルフィーナの結婚式がひと月後になった。
最近の彼女は挙動不審だ。
オリバーと目を合わせることを恥ずかしがり、オリバーを男として意識していることが丸わかりだ。
正直言って、もっと早くオリバーに落ちると思っていた。
おそらく、結婚式を前に、改めて閨教育を受けたか母親あるいは侍女から閨事について話をされたか。
それにより、オリバーと夫婦になることを彼女はようやく実感してきたのだろう。
オリバーもミルフィーナを観察することが楽しくて、婚約者として甘い言葉をかけたり抱きしめたりしてこなかったため、オリバーを男と意識させることが遅れたのだと気づいた。
そうだよな。ミルフィーナは『王子』であるオリバーに見向きもしなかった女性だ。
身分だけで擦り寄ってくるような女性たちとは違うことを忘れていた。
それでなくとも外見は好みから外れているのだ。
意識させるようにオリバーの方から仕向けなければならなかったのに、ついからかったり仕事の話をしてしまっていた。
観劇やパーティーなどには一緒に出席するし、ドレスも贈って褒めたりしていたが、どこか仕事みたいだったからだ。
おそらく、ミルフィーナが外に出るときは公爵令嬢の仮面を被るからだろう。
オリバーもまだ第二王子であるため、そうした自分を作る。
そうして外では適切な婚約者同士の関係を保っていた。
今、意識しているのも夫婦生活を想像して恥ずかしいからであって、オリバーに落ちたわけではない。
これではいけない。
このままだと初夜、あるいは誓いのキスでミルフィーナは緊張で倒れてしまうかもしれない。
いや、醜態を晒さないよう公爵令嬢としての気合だけで何とか動いていても、内側はパニックを起こして思考停止状態になるかもしれない。
それはそれで面白いが、記憶にないのはさすがに可哀相な気もする。
だがせっかく意識し始めてくれたのだ。このまま婚約者としての触れ合いに慣れてもらおう。
そう思ってオリバーはミルフィーナに言った。
「ミルフィーナ、私の隣においで。」
「とっ!……」
ビクッとしたミルフィーナはそのまま顔を真っ赤にした。
いや、まだ隣だぞ?
パーティーとかで腰に触れたこともダンスを踊ったこともあるじゃないか。
公爵令嬢モードでいる時は平気なのに、素では恥ずかしいんだな。
オリバーは動かないミルフィーナをひょいと横抱きにしてそのまま座った。
腕に抱いたままだ。顔の距離はとても近い。
「なっ!……あっ……下ろしてぇ……」
面白いな。このまま表情の変化を観察していたい。
オリバーの上から下りようと暴れることなく、羞恥で震えるミルフィーナはとても可愛かった。
「ミルフィーナ、私たちはもうすぐ結婚するんだよ?慣れないと、ね?」
「な、慣れ……」
素早く彼女の頬に口づけると、顔から湯気が出そうなくらいに真っ赤になっていた。
そういえば、あの絵本にはキスシーンはなかったか。
気絶しなかったから前進あるのみ、だな。
オリバーは結婚式までの間、恥ずかしがって逃げようとするミルフィーナを捕まえては毎日イチャイチャして過ごした。
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