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パトリックはルナセアラと婚約して落ち着いてから、ふと思った。 

ミルフィーナはとんでもなく天の邪鬼だった可能性はないか、と。
 
求婚を受けるつもりが、つい断ってしまう。
だけど、求婚を受ける気があるから『また来年、求婚してね』と言っていたのではないか。


だが、思いとは裏腹なことを口にする異性を『可愛い』とか『仕方ない奴』とか思えるのは、元々その人の内面を知っていて、でも素直になれない一面も好意的に受け止められるからである。

パトリックの場合、ミルフィーナのことをほとんど知らない。
なんだか、演技してるっぽい令嬢だなとは思ったけれど、公爵令嬢としての矜持なのかなと思った。


あの数々の下手な言い訳、いや、ほとんどが本当のことなのだろうけれど、そんな些細なことで誘いが断られていたのも、そこが気になると公爵令嬢の仮面が剥がれて自分が保てなかったから、とか?

目が腫れている、前髪を切りすぎた、頬に出来物が……

そう言えば、ルナセアラも『女心ということでお許しくださいませ』と言っていたな。

好きな男の前で恥ずかしい姿を見せたくなかったってことか?  

 
そう考えると、ミルフィーナにも『可愛い』一面があったのだと思える?

……いや、無理だ。

たとえそれが事実だとしても、過去を笑って済ませるようになるには、彼女の素を知る必要がある。

そして、パトリックはもうミルフィーナの素を知りたいと思っていない。


たとえ、彼女が素直になれなかったことを後悔していると知ったとしても、今更だと思うだけだろう。

パトリックが知りたいのはルナセアラのことだけでいい。 

ミルフィーナはルナセアラの姉。将来の義姉というだけの関係になる。




パトリックは学園を卒業し、ルナセアラは最終学年になった。

ルナセアラが来年卒業してから、2人は結婚する。

婚約してから2人の仲は一気に縮まっていた。
彼女は心根が優しい女性だ。一緒にいるとポカポカと温かさを感じて幸せな気持ちになれる。


一部、略奪だとか心変わりだとかの陰口もあったらしいが、公爵家と侯爵家相手に噂を広めようとするバカはいなかった。

それに、ミルフィーナの婚約も決まったからだ。

相手はオリバー第二王子殿下。

エメット公爵家の婿に入る。


ミルフィーナが昔、婚約者候補を降りたとき、オリバー殿下は違う候補者の中から婚約者を選んだ。

しかし昨年、その婚約者の令嬢は病気に罹り、顔に出来物の跡が多数残ってしまった。
オリバー殿下は化粧で隠せばいいと言ったらしいが、令嬢はショックで気鬱になってしまった。
それにより、婚約解消していた。

しかも、兄の王太子に立て続けに男の子が3人産まれ、オリバーが王族として残る必要性もなくなった。
なので臣下にという話になっていたが、王弟として一代公爵位を得るとしても年齢と身分に合う令嬢はほとんど結婚済か婚約者がいた。

そこで、まだ決まっていないエメット公爵家の婿が望ましいと2人の令嬢が婚約者候補に。

だが、どちらが次期公爵になるかがわからない。

5度目の求婚騒動が終わり次第、エメット公爵家を継ぐ令嬢がオリバー殿下と婚約することが決まった。

このことは公爵夫妻しか知らず、ミルフィーナとルナセアラには隠されていたということを後から聞き、婿となる婚約者候補がいなかったことに納得した。

 
 


 
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