5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
19 / 33

19.

しおりを挟む
 
 
ルナセアラはこの婚約が正しいのか、まだどこか悩んでいるようだった。 


「ひょっとして、僕が君に求婚したことは迷惑だった?」

「いえ、そんな。……嬉しかったです。」


そうだよな。そんなはにかんだ笑顔を見せられると、嬉しいと言った言葉に嘘はないと思う。

 
「じゃあ、何が気にかかる?婚約者になったんだ。君の心を暗くする悩みごとがあるなら聞くよ?」


ルナセアラは一瞬で目が潤んだが、涙を流さずにパトリックを見据えて言った。


「……半年前にお会いした時、私が言った話は嘘ではありません。ですが、私は敢えて公爵家の内情をお話ししました。姉が次期公爵になる道もまだある。それをお伝えすることで、パトリック様が最後の求婚を姉にしなくても済むのではないか。そう思ったからです。」

「うん。確かに、君と今ここにいるのはあのことがきっかけだな。」


サファイアの指輪を作ることにしたのだから。


「私は後になって気づきました。私がお伝えしたことは姉を選ばないのであれば、私を選べと言ったのと同じことではないか、と。」

「まあ、そうかもね?」
 

ルナセアラは、ただパトリックのことを案じてくれていただけなのだろう。
4度も求婚を断られ、それから半年間、姉ミルフィーナへの誘いがないということは、ミルフィーナへの5度目の求婚を悩んでいるのではないか、と。

その後押しになればいいのではないかと思い、姉には次期公爵になる道がまだあるとルナセアラは言いたかっただけなのだ。


「でも、姉の誕生日パーティーはもう注目の的になっていました。パトリック様はエメット公爵家の体面を気遣うあまり、姉か私、どちらかに求婚しなければならなくなったのではないですか?」

「確かにそうだ。5年間も大なり小なり噂されてきた両家なのに、5度目の求婚をしないままで終わるということを不満に思う貴族は多いだろうと思った。
受け入れられるにしても、断られるにしても、5度目の求婚はしなければならなかった。」

「……私は断った方がよかったのでしょうか。」 


断れば、ミルフィーナではなくルナセアラでもない、別の令嬢と婚約することができた。
パトリックはそれを望んでいたのではないかとルナセアラは気にしているようだった。

 
「いや、君が受けてくれてよかったよ。
君が断っていれば、エメット公爵令嬢は2人して男を弄ぶ女だと言われただろう。そして僕は5度も断られるような欠陥のある男だと言われただろう。両家にとってそれは望ましくない。」

「あ……そうですね。」

「僕はね、ギリギリまで悩んでいた。どちらに求婚するか。2人の顔を見て決めたんだ。」

「顔?」

「ああ。ミルフィーナ嬢は安堵して笑顔を見せた。僕はその安堵が不快に感じた。求婚に来るかどうか不安に思っていたんだろう。なのに1年、彼女は何も行動しなかったのだから。」 

「確かに、そうですね。」

「そして君は悲しそうに微笑んでいた。僕が姉に求婚することを悲しく思った。違うか?」


ルナセアラは驚いて固まっていた。
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

処理中です...