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しおりを挟むパトリック様は求婚を断っても怒っていなかったようで、月に一度、誘ってくれるようになったわ。
でも、憧れそっくりの王子様を目の前にして、何も話せないと思ったの。
観劇やパーティーなら、隣にいるだけ。顔を見合わせる機会は少ないわ。だから一緒に過ごせた。
だけど、2人きりのお茶会は息が止まりそう。
パトリック様に会う緊張で眠れなくて夜更かししたせいで目が腫れて見られたくなかった。
近くまで行ったのに横顔を見ただけで屋敷から逃げたこともあった。
短くなりすぎた前髪が恥ずかしくて会えないと言ったこともあった。
月のもので粗相したら死にたくなるから会いたくなかった。
頬の吹き出物を見られたくなかった。
他にもいろいろあったけど、いつも自分の代わりにルナセアラに行ってもらっていた。
これって、確かに自分が妹とパトリック様を引き合わせていたってことよね?
なんてバカなの。
2度目の求婚の時もそう。
赤い薔薇は昨年の自分が望んだ通りのものだったのに。
あまりに素敵で、もうこれで終わり?って惜しくなった。
それで思い出したの。
『また来年、求婚してね』
この言葉を言えば、また来年もパトリック様は求婚してくれるわ。
それに、この赤い薔薇はそのうち枯れてしまう。
枯れない赤い薔薇が欲しいわ。
赤と言えば、ルビー?ガーネット?それくらいしか思いつかなかったわ。
周りの令嬢たちからは何度も求婚されて羨ましいと言われたわ。
確かに、舞い上がってしまうような気分になってしまったわ。
3度目の求婚の時もそう。
素敵なガラス細工の赤い薔薇。感動したわ。みんなに自慢したくなるほど。
でもね、絵本をよく見てみたら、赤い薔薇と一緒に王子様は指輪を差し出していたの。
だから求婚には指輪が必要じゃない?
『また来年、求婚してね』
今度は指輪を望んだわ。来年こそ。来年こそは求婚を受けるわ!
でも4度目の求婚の時。
思わず赤じゃないって思ったの。私には赤が似合わないわ。
毎日つけたい指輪が自分に似合っていないって、嫌じゃない?
だからダイヤモンドなら、どんな服にでも合うと思ったの。絵本の王子様の指輪も色はなかったし。
来年こそ、ダイヤモンドの指輪で求婚を受けるわ!!
でも、その指輪も素敵だから……って手を伸ばそうとしたら、パトリック様はポケットにしまってしまったの。
残念だったわ。
図々しく欲しいだなんて公爵令嬢として言えなかったの。
パトリック様のお母様からも苦言を呈されてしまって、いい感情を持たれていないと今更気づいたわ。
しかもそれっきり、パトリック様からお誘いがなくなってしまった。
どうして?
4度も求婚を断ったから?
また来年、求婚してくれるわよね?
内心、怯えながら10か月を過ごしたわ。
18歳の誕生日パーティーの2か月前に招待状を出すと、パトリック様は出席の返事をしてくださった!
ほら、大丈夫。
5度目の求婚をしてくださるわ。
今度こそは、絶対に求婚を受け入れるからみんな、楽しみにしていてね。
誕生日当日、本当に来てくれるかドキドキして待っていたの。
よかった!来てくれたってホッとしたわ。
パトリック様のところから私まで道ができたわ。
すごい!
完璧な求婚になるわ!!!
なのに、パトリック様が跪いたのはルナセアラの前だったの。
私の前は通り過ぎて。
私は笑顔が固まったまま、2人の婚約が纏まるのを見ていたわ。
……ナニコレ。
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