16 / 33
16.
しおりを挟むミルフィーナには小さな頃から好きな絵本があった。
金髪碧眼の王子様。名前はパトリック王子。
お茶会でパトリック様を見た時、絵本の王子様だと思ったわ。侯爵令息だったけど。
だけど、別に結婚したいとか、そんな思いはなかったの。
だって、現実的に跡継ぎ同士だから無理だってわかっていたから。
恋をしていたわけでもなかった。あぁ、憧れの王子様が話して笑って動いてるって感じで。
ミルフィーナは、本当は人に注目されるのが苦手で、自分の言いたいことも言えないような内気な性格。
それを礼儀作法の先生にこっそりと打ち明けたら、先生は『公爵令嬢を演じればいい』とおっしゃったの。
貴族というのは腹の探り合いをするもの。
誰もが本音で生きているわけではなく、自分を作っている。
だったら、ミルフィーナも自分が思い描く公爵令嬢を演じればいいということだったの。
周りから尊敬されて、優しくて、自信に溢れて堂々としている公爵令嬢。
そんな女性を目指した。
だけど、上手く使い分けができなくなったの。
家族の前では今まで通りの自分でいたかった。
だけど、切り替えができなくて、家族にもしっかりした自分を見せて悩みごとも相談できず、一人になると後悔してばかりで。
オリバー殿下の婚約者になんてなれば、何をどう演じればいいのかわからなくなると思った。
だから衝動的に嫌だって言って部屋に逃げたわ。
久しぶりに家族の前で素の自分が出た。
部屋で考えたわ。
私って、公爵家を継がなければならないと思い込んでいたけど、そうでもないのね?って。
ルナセアラが継いでもいいのなら、公爵になるよりも侯爵夫人の方がいいわ。
その方が自分が判断しなければならないことが少ないもの。公爵位は私には重いわ。
そう思って、パトリック様と結婚するって言いに戻ったわ。
両親も、侯爵家なら問題ないか、と婚約の打診をしようと言ってくれた。
だけど、そこで思ったの。浮かれたと言ってもいい。
絵本の王子様は大勢の前で求婚して、その場でみんなに祝福されていたわ。
私も経験してみたい!って。
だから、父にお願いしたの。14歳の誕生日に求婚されたいって。人前が苦手なのにね?
そしてパトリック様はパーティーで求婚してくれたわ!
でも、薔薇がオレンジ色だったの。オレンジ色は大好きだけど、絵本の王子様は赤い薔薇だったわ。
そう思ったら、思わず口をついて出てしまったの。
慌てて公爵令嬢らしく落ち着いて、『また来年、求婚してね』って言ってしまった。
自分でも訳が分からなかったわ。
これって、断ったってことよね?それなのに来年?……ナニソレ。
恥ずかしくって、情けなくって、次の日に屋敷まで来てくれたパトリック様に合わす顔がなかったわ。
だから、ルナセアラにパトリック様のお相手をお願いしたの。
690
お気に入りに追加
883
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

大恋愛の後始末
mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。
彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。
マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。


男爵令息と王子なら、どちらを選ぶ?
mios
恋愛
王家主催の夜会での王太子殿下の婚約破棄は、貴族だけでなく、平民からも注目を集めるものだった。
次期王妃と人気のあった公爵令嬢を差し置き、男爵令嬢がその地位に就くかもしれない。
周りは王太子殿下に次の相手と宣言された男爵令嬢が、本来の婚約者を選ぶか、王太子殿下の愛を受け入れるかに、興味津々だ。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる