5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん

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ミルフィーナには小さな頃から好きな絵本があった。

金髪碧眼の王子様。名前はパトリック王子。

お茶会でパトリック様を見た時、絵本の王子様だと思ったわ。侯爵令息だったけど。
 
だけど、別に結婚したいとか、そんな思いはなかったの。
だって、現実的に跡継ぎ同士だから無理だってわかっていたから。

恋をしていたわけでもなかった。あぁ、憧れの王子様が話して笑って動いてるって感じで。



ミルフィーナは、本当は人に注目されるのが苦手で、自分の言いたいことも言えないような内気な性格。

それを礼儀作法の先生にこっそりと打ち明けたら、先生は『公爵令嬢を演じればいい』とおっしゃったの。

貴族というのは腹の探り合いをするもの。
誰もが本音で生きているわけではなく、自分を作っている。

だったら、ミルフィーナも自分が思い描く公爵令嬢を演じればいいということだったの。

周りから尊敬されて、優しくて、自信に溢れて堂々としている公爵令嬢。 
 
そんな女性を目指した。

だけど、上手く使い分けができなくなったの。

家族の前では今まで通りの自分でいたかった。
だけど、切り替えができなくて、家族にもしっかりした自分を見せて悩みごとも相談できず、一人になると後悔してばかりで。


オリバー殿下の婚約者になんてなれば、何をどう演じればいいのかわからなくなると思った。

だから衝動的に嫌だって言って部屋に逃げたわ。
久しぶりに家族の前で素の自分が出た。
 
部屋で考えたわ。
私って、公爵家を継がなければならないと思い込んでいたけど、そうでもないのね?って。
ルナセアラが継いでもいいのなら、公爵になるよりも侯爵夫人の方がいいわ。
その方が自分が判断しなければならないことが少ないもの。公爵位は私には重いわ。

そう思って、パトリック様と結婚するって言いに戻ったわ。

両親も、侯爵家なら問題ないか、と婚約の打診をしようと言ってくれた。

だけど、そこで思ったの。浮かれたと言ってもいい。

絵本の王子様は大勢の前で求婚して、その場でみんなに祝福されていたわ。

私も経験してみたい!って。

だから、父にお願いしたの。14歳の誕生日に求婚されたいって。人前が苦手なのにね?


そしてパトリック様はパーティーで求婚してくれたわ!

でも、薔薇がオレンジ色だったの。オレンジ色は大好きだけど、絵本の王子様は赤い薔薇だったわ。
そう思ったら、思わず口をついて出てしまったの。
慌てて公爵令嬢らしく落ち着いて、『また来年、求婚してね』って言ってしまった。

自分でも訳が分からなかったわ。
これって、断ったってことよね?それなのに来年?……ナニソレ。

恥ずかしくって、情けなくって、次の日に屋敷まで来てくれたパトリック様に合わす顔がなかったわ。

だから、ルナセアラにパトリック様のお相手をお願いしたの。



 
 



 
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