5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
15 / 33

15.

しおりを挟む
 
 
妹ルナセアラとパトリック様の婚約パーティーとなった誕生日パーティが終わった。
 
その夜、ミルフィーナはまだ現実が受け止め切れていなかった。

表面的にはパーティーの時と同じく妹の婚約を祝福する姉のように見えていただろう。

両親ですら、まるでミルフィーナがこうなることを望んでいたのだと納得した顔をしていた。

パトリックが言ったことが、両親が言ったことが、ミルフィーナが言ったことが、もう事実であるかのように自分たちにも貴族たちにも浸透していくことだろう。

しかしまだ、ミルフィーナの心は混乱中。

それでもミルフィーナは姉の顔をして妹ルナセアラに言った。


「婚約おめでとう。私も嬉しいわ。」

「ありがとうございます。お姉様。」


妹は綺麗な笑みを浮かべた。
この子はまさかパトリック様が言ったことが事実だと思ってる?


ミルフィーナはルナセアラにも自分の本心を語ったことがなかった。

『パトリック様が素敵すぎて一緒に過ごすなんて恥ずかしすぎる』ということを。

『パトリック様が好き』だということを。

ちゃんと話しておけば、こんなことにはならなかった?


私たちは仲が悪い姉妹というわけじゃない。
特別仲が良いというわけでもないけれど、普通の姉妹だと思っている。

ただ、たった1歳違いでも、ミルフィーナは姉。
その姉という立場に自分で自分を縛り付けてきた。 

妹に弱音は吐かない。悩みごとを相談しない。

自分は姉なのだから、弱音を聞いてあげたり、悩みごとの相談に乗ってあげる立場なのだ、と。


しかし、改めて考えてみると、ルナセアラから頼られたことはあっただろうか。

小さい頃はまだしも、ここ何年もないと気づいた。

正確にはいつから?


一緒に後継者教育を受け始めた頃?……違うわ。ミルフィーナの14歳の誕生日、ルナセアラの13歳の誕生日の頃からなのかもしれない。

最初にパトリック様の求婚を断った頃から。

あるいは、その前のパトリック様と結婚すると言った頃から?

あのミルフィーナの言葉で、ルナセアラは公爵家の跡継ぎになることが急に決まったんだわ。


だから、姉を頼らなくなった?
跡継ぎとしてしっかりしようと頑張っていた?
それなのに、ミルフィーナはパトリック様の求婚を断ってしまった。その翌年も。

その頃から、ミルフィーナも再び後継者教育を受け始めた。

父はミルフィーナがどうしたいのか何も言わないから、わからなくなったのでしょうね。
どちらが継いでも大丈夫なように考えたんだわ。

だけど、そのことがルナセアラも不安定な立場に置いてしまったのよ。
 
姉は嫁ぐのか、公爵家を継ぐのか。

はっきりしない姉に、ルナセアラが頼るはずもないのに。

あの子の婚約者が決まらなかったのも当然のことだったとようやく気づいたわ。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

大恋愛の後始末

mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。 彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。 マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。

それでも好きだった。

下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。 主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。 小説家になろう様でも投稿しています。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。

BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。 後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。 新しい兄は最悪だった。 事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。 それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか? 本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

処理中です...