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パトリックは両親にも何も言わずにルナセアラに求婚した。

驚いただろうが、まるで知っていたかのような顔をしていたのはさすがだった。


「勝手なことをして申し訳ありません。」

「いや、お前はルナセアラ嬢を選び、ミルフィーナ嬢と公爵夫妻もそれに乗っかった。ならそれでいい。
ミルフィーナ嬢は次期公爵だ。相手に困ることにはならないだろう。彼女がお前にフラれたと噂されることを思えばいい寸劇になったと思うぞ?」


確かに。上手く演じてくれた。
ルナセアラを選んだ後、ミルフィーナが泣いたり喚いたりしていたら最悪だった。

まるでパトリックがミルフィーナからルナセアラに心変わりしたかのように思われてしまう。

あるいは、求婚を断り続けたミルフィーナではなく妹を選んで復讐したと思われるかも。

そんなことにならずに済んでよかった。

今まで散々パトリックは公開求婚を断られた男として笑われてきたから、鈍感だと笑われるくらい大したことではない。


それに、ミルフィーナは普段からどこか自分が公爵令嬢だと演じているように思えた。
だから、突発的な対応は苦手だろうという考えがあったのだ。
驚いて、泣くことや喚くことなど頭に浮かばない。公爵令嬢としてどう対応するべきか戸惑うだろう。

パトリックはそう読んでいたのだ。




「いつからルナセアラ嬢に気持ちがあったんだ?知らなかったよ。」


こっそり聞いてきた父に、パトリックは返事に困った。


「実は……ルナセアラ嬢に特別な好意はまだないのです。ふと思って念のために指輪も準備しましたが、ここに来るまで悩んでいました。本当に直前になってルナセアラ嬢を選んだのです。」


半年前、ルナセアラと偶然会った時に聞いた話。
パトリックが求婚を止めれば、エメット公爵家の跡継ぎはミルフィーナになる可能性もあるということ。
ならばミルフィーナが次期公爵になるように仕向ければいい。そうすればパトリックの求婚は不要だ。
でもそのためには、パトリックはルナセアラを選ぶ必要があるのではないか。

そう思い、サファイアの指輪を準備したのだ。


「ミルフィーナ嬢に求婚していたかもしれなかったのか?」 

「そうですね。顔を……彼女たちの表情を見て決めようと思いました。」

「表情を?」

「求婚に向かう際、ミルフィーナ嬢は喜んだ。ルナセアラ嬢は悲しんだ。心がルナセアラ嬢を選びました。」


ミルフィーナは安堵の笑顔をした。それが不快に感じた。
ルナセアラは悲しげな微笑みを浮かべていた。ルナセアラを喜びの笑顔にしたいと思った。
 

「それはお前、特別な好意に繋がる気持ちだ。自覚すればあっという間に惚れてるさ。」
 

そうかな?そういうものか?まぁ、それでいいか。
 

「直感というのは侮れないぞ。あるいは深層心理だったという可能性もあるな。」
 

父は何だか楽しそうだ。

それもそうか。ようやく息子の婚約者が決まったのだから。
 



 
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