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しおりを挟むお茶とお菓子が運ばれてきて一息ついた時、ルナセアラがパトリックに聞いてきた。
「パトリック様、聞きたいこととは姉のことでしょうか?」
「あ、いや、そうじゃなくて。……エメット公爵家のことなんだ。公爵家の跡継ぎはルナセアラ嬢、君なんだよな?」
エメット公爵家の子供は、姉のミルフィーナと妹のルナセアラの2人しかいない。
「そう、ですね。一応、それでいいと思います。」
「一応?君が跡継ぎとして学んでいるのではないのか?それとも親戚から養子を?」
「あ、いえ。確かに父から少しずつ領地経営のことや公爵家のことについて学んでいます。ですが、それは姉も一緒に学んでおりまして。」
「ミルフィーナ嬢も……それは彼女が僕の求婚を受けない理由でもあるのかな?お父上の指示で?」
ミルフィーナは公爵家の跡継ぎになりたいのか?
「そういうわけではないと思います。父が、どちらが継ぐにしても嫁ぎ先でも夫の助けになるから、ということで。」
なるほど。確かに、病気や事故などで夫の仕事が滞り、あたふたする場合があると聞く。部下を信じ切っていると横領されるのもそんな時期に起こりやすいとも。妻に代理としてサインを求める時に誤魔化すからだ。
知識があれば、確かに助けになるだろう。
「ですが、おそらくそれは父の口実でもあると思います。」
「口実?」
「……姉がパトリック様からの求婚をお受けしない理由が不明だからです。」
「公爵夫妻は知らないのか?ひょっとして君も?」
ルナセアラは頷いた。
「姉は毎年、今年こそは受けると言いながらも断ります。理由を聞いても話そうとしません。ですので、父は姉のことが理解できずに嫁がない可能性も考えて学ばせているのだと思います。」
そうか。公爵家は強気でいるようで、いつパトリックと侯爵家が求婚しなくなってもおかしくはないと思っているということか。
それに、ミルフィーナ自身が『また来年、求婚してね』とパトリックに言う限り、誰か他の者と無理やり婚約させるわけにもいかなくて困っているのだ。
「姉は、13歳まで自分がエメット公爵家の跡継ぎだと自覚していました。婿を取ることになるので、両親も高位貴族の次男三男に目をつけ始めようとしている頃でした。オリバー殿下の婚約者候補の話が来たのは。」
この国ではあまり小さな頃から婚約者を決めない。
王族は学園に入学する前に婚約者候補と交流し始めるが、それ以外の貴族は学園入学後ということが多い。
「父から話を聞いた姉は、嫌だと言って部屋に戻りました。なので、父は私を殿下の婚約者候補にすると言いました。」
「え?ミルフィーナ嬢に来た話じゃないのか?」
「エメック公爵令嬢への打診でしたので、姉でも私でも実はどちらでもよかったのです。ですので、私で話を受けようと話し合っていた時、姉が戻ってきて言いました。『私はパトリック様の婚約者になるのっ!』と。」
なるほど。そういうことか。
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