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そしていつもの如く、ミルフィーナと約束したはずなのにルナセアラがやってきた。


「パトリック様、申し訳ございません。」

「今日はどんな理由かな?」

「……前髪が短くなり過ぎたから、と。」

「ははっ……学園でも見ているんだけどね。」


どうして前髪が短いことがお茶の誘いを断ることになるのか、パトリックには意味不明だった。 

確かに、前髪を切ったんだな、とは思った。
それがいつもよりどれくらい短くなったかまではわからない。


「女心ということでお許しくださいませ。」

「意味が分からないけど、ルナセアラ嬢はお茶に付き合ってくれるのかな?」

「はい!ご一緒させていただきます。」


ルナセアラは以前よりもよく笑うようになったとパトリックは感じた。

何度か、ミルフィーナが『妹は内気だから』と言っていたが、今ではそう思うこともないだろう。

パトリックからしてみれば、前髪が短いくらいでお茶会をすっぽかすミルフィーナの方がよほど内気なのではないかと思った。
 

「あのガラス細工、とてもキレイでいつも眺めています。ありがとうございました。」


ルナセアラの15歳の誕生日に贈ったもののことだ。
ミルフィーナには薔薇を、ルナセアラには無色でユリのガラス細工を贈った。
同じ大きさではなく、ルナセアラの方は手のひらサイズだ。実は小さい方が難しかった。
それでも満足のいく出来栄えだった。


「ガラス職人になれるんじゃないか?って自分でも思ったよ。」


親方にも褒められたくらい、パトリックは手先が器用な方らしい。

 
「来年はとうとう指輪、ですか。」

「ミルフィーナ嬢は初めからそれを望んでいたのかな?確かに花束や指輪は求婚の必須アイテムだと言われた時代があったけれどね。」

 
パトリックは苦笑するしかなかった。
そんな古臭い求婚を望む令嬢がまだいるとは思わなかったのだ。

いつしか廃れた慣習。

求婚されると喜ぶ女性ばかりではない。
中にはそんなつもりで会っていたわけではない者もいる。

花束を持って来ていると求婚されるのがバレバレだ。待ち合わせ場所から逃げる女性もいた。 
店に預けている場合もあったらしいが、花束を見た時点で求婚を受けたくない女性は必至で逃げることしか考えられなくなるという。
そして取り残された男は花束を抱えたまま呆然とするしかない。それはそれは哀れな姿だ。 

指輪もそうだ。
宝石が気に入らない。デザインが気に入らない。サイズが合わない。安物に見える。代々伝わる指輪なんて気味が悪い。
結果、つけてくれなかったり、売られたり、新しいものを買わされる。
 

親から昔の苦労話を聞いた子供は、人前での求婚など誰もしなくなった。
指輪も、求婚を受けてもらってから一緒に選んだりする。


指輪と言われてようやく気づいた。

公開求婚も、薔薇の花束も、指輪も、全てひと昔前の時代。

ミルフィーナに多大な影響を与えたと思われる絵本は、その時代に描かれたものに違いない。

 


 
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