上 下
5 / 33

5.

しおりを挟む
 
 
パトリックは約束を取りつけてエメット公爵家を訪れたが、現れたのはまたも妹のルナセアラだった。 
 

「ごめんなさい、お姉様はご友人と先に約束をしていたことを思い出して出かけてしまって……」


なら約束の取り消しを伝えてくれれば来なくて済んだのに。


「そうか。ならまた君とお茶を飲もうかな。」

「はい。喜んで。」


ルナセアラが座ろうとした時に、後ろ姿が見えた。


「あ、髪飾りをつけてくれたんだ。」

「はい。気に入っています。ありがとうございました。」


ルナセアラの14歳の誕生日は髪飾りにした。
宝石などついていないシンプルな銀細工のものである。
求婚している令嬢の妹にあまり豪華なものをプレゼントするわけにもいかないので日常使い用にと贈ったものだった。

昨年のリボンもつけてくれている姿を何度か見せてくれた。

贈ったものを実際に使ってくれるのは嬉しいものだと改めて実感した。
 

「お姉様はルビーやガーネットを薔薇の形にしたらどうかって無茶苦茶なことを言っていましたね。美しい輝きこそ宝石の値打ちというものなのに、削って薔薇にしたら輝きが失せてしまうと母が嘆いておりました。」

「僕の母も同じようなことを言っていたよ。そもそもそれが薔薇だと誰にでもわかるようにするにはそれなりの大きさの宝石が必要になる。
さすがにそれを手に入れるのは王族でも難しいし、僕はもちろん王族ではないし、ルビーの鉱山も持っていない。
だからガラス細工はどうかと思っているんだ。」

「まあ!素敵だと思うわ。」

「そう思ってくれると嬉しいな。どんなのがいいと思う?」


パトリックはルナセアラと一緒にガラス細工の図案を考え、楽しい時間を過ごした。
 




そしてミルフィーナの16歳の誕生日。

パトリックはガラス細工を手にミルフィーナに求婚した。


「ミルフィーナ嬢、僕と婚約してください。」


ガラスドームに入っている一本の赤い薔薇を取り出してミルフィーナに捧げた。
一本の意味は特にない。ただこの一本が一番出来が良かったというだけだ。
最初は職人に任せるつもりだったが、作業工程を見て自分でも作ってみたくなったのだ。
試行錯誤を繰り返し、満足のできた一本なのである。
 
ガラスドームに収納できるようになっている。

周りからは『キレイ』とか『素敵』とか声が聞こえてきた。


「キレイだけど、やっぱり求婚って、指輪じゃない?薔薇の指輪。また来年、求婚してね。」


そう言いつつも誕生日プレゼントとして受け取ると言ってガラスの薔薇をパトリックの手から取り、自分でガラスドームに入れて、いろんな角度から眺めていた。そこに友人であろう令嬢たちも集まり、一緒に輝きを眺めていた。


まぁ、なんとなく予想はしていた。こうなることを。 


こうして3度目、16歳の求婚も失敗に終わった。
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

けじめをつけさせられた男

杜野秋人
恋愛
「あの女は公爵家の嫁として相応しくありません!よって婚約を破棄し、新たに彼女の妹と婚約を結び直します!」 自信満々で、男は父にそう告げた。 「そうか、分かった」 父はそれだけを息子に告げた。 息子は気付かなかった。 それが取り返しのつかない過ちだったことに⸺。 ◆例によって設定作ってないので固有名詞はほぼありません。思いつきでサラッと書きました。 テンプレ婚約破棄の末路なので頭カラッポで読めます。 ◆しかしこれ、女性向けなのか?ていうか恋愛ジャンルなのか? アルファポリスにもヒューマンドラマジャンルが欲しい……(笑)。 あ、久々にランクインした恋愛ランキングは113位止まりのようです。HOTランキング入りならず。残念! ◆読むにあたって覚えることはひとつだけ。 白金貨=約100万円、これだけです。 ◆全5話、およそ8000字の短編ですのでお気軽にどうぞ。たくさん読んでもらえると有り難いです。 ていうかいつもほとんど読まれないし感想もほぼもらえないし、反応もらえないのはちょっと悲しいです(T∀T) ◆アルファポリスで先行公開。小説家になろうでも公開します。 ◆同一作者の連載中作品 『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』 『熊男爵の押しかけ幼妻〜今日も姫様がグイグイ来る〜』 もよろしくお願いします。特にリンクしませんが同一世界観の物語です。 ◆(24/10/22)今更ながら後日談追加しました(爆)。名前だけしか出てこなかった、婚約破棄された側の侯爵家令嬢ヒルデガルトの視点による後日談です。 後日談はひとまず、アルファポリス限定公開とします。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...