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5.
しおりを挟むパトリックは約束を取りつけてエメット公爵家を訪れたが、現れたのはまたも妹のルナセアラだった。
「ごめんなさい、お姉様はご友人と先に約束をしていたことを思い出して出かけてしまって……」
なら約束の取り消しを伝えてくれれば来なくて済んだのに。
「そうか。ならまた君とお茶を飲もうかな。」
「はい。喜んで。」
ルナセアラが座ろうとした時に、後ろ姿が見えた。
「あ、髪飾りをつけてくれたんだ。」
「はい。気に入っています。ありがとうございました。」
ルナセアラの14歳の誕生日は髪飾りにした。
宝石などついていないシンプルな銀細工のものである。
求婚している令嬢の妹にあまり豪華なものをプレゼントするわけにもいかないので日常使い用にと贈ったものだった。
昨年のリボンもつけてくれている姿を何度か見せてくれた。
贈ったものを実際に使ってくれるのは嬉しいものだと改めて実感した。
「お姉様はルビーやガーネットを薔薇の形にしたらどうかって無茶苦茶なことを言っていましたね。美しい輝きこそ宝石の値打ちというものなのに、削って薔薇にしたら輝きが失せてしまうと母が嘆いておりました。」
「僕の母も同じようなことを言っていたよ。そもそもそれが薔薇だと誰にでもわかるようにするにはそれなりの大きさの宝石が必要になる。
さすがにそれを手に入れるのは王族でも難しいし、僕はもちろん王族ではないし、ルビーの鉱山も持っていない。
だからガラス細工はどうかと思っているんだ。」
「まあ!素敵だと思うわ。」
「そう思ってくれると嬉しいな。どんなのがいいと思う?」
パトリックはルナセアラと一緒にガラス細工の図案を考え、楽しい時間を過ごした。
そしてミルフィーナの16歳の誕生日。
パトリックはガラス細工を手にミルフィーナに求婚した。
「ミルフィーナ嬢、僕と婚約してください。」
ガラスドームに入っている一本の赤い薔薇を取り出してミルフィーナに捧げた。
一本の意味は特にない。ただこの一本が一番出来が良かったというだけだ。
最初は職人に任せるつもりだったが、作業工程を見て自分でも作ってみたくなったのだ。
試行錯誤を繰り返し、満足のできた一本なのである。
ガラスドームに収納できるようになっている。
周りからは『キレイ』とか『素敵』とか声が聞こえてきた。
「キレイだけど、やっぱり求婚って、指輪じゃない?薔薇の指輪。また来年、求婚してね。」
そう言いつつも誕生日プレゼントとして受け取ると言ってガラスの薔薇をパトリックの手から取り、自分でガラスドームに入れて、いろんな角度から眺めていた。そこに友人であろう令嬢たちも集まり、一緒に輝きを眺めていた。
まぁ、なんとなく予想はしていた。こうなることを。
こうして3度目、16歳の求婚も失敗に終わった。
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