離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん

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アビゲイルとリディアがいなくなった家でボルトは息子デールと2人になった。
アビゲイルの起こした虐待と毒の件を知り、両親は王都に戻ってくるという。

何もかもが面倒だと思っていると、デールの侍女が話しかけてきた。


「ボルト様、あの、デール様がケーキを食べに行きたいと申しておりまして。」

「ケーキ?使用人に買いに行かせればいいじゃないか。」

「いえ、よく食べに行くお店があるのです。いつもアビゲイル様に連れられて。
 ですが、いらっしゃらないので無理だと言うと、ボルト様と行きたいと言われまして。」

「俺と?はぁ。まあいいか。わかった。そこに連れていけ。」


馬車に乗り、その店へと向かった。

店の席に座ると、デールが不思議そうな顔をしている。


「どうした?」

「ちちうえ、いっしょ?」

「?」


意味が分からず、どう聞いていいかもわからないでいると、侍女が代わりに答えた。


「デール様はボルト様も一緒に食べるのかと聞かれているのだと思います。
 アビゲイル様はいつも1時間ほどお出かけになられますので。」

「……ここにデールを置いて?」

「はい。」


デールがケーキをぐちゃぐちゃにしながら食べる姿を、紅茶が不味くなる思いがしながら見ていた。
途中から侍女に食べさせてもらい、満足したようだったので店を出た。
デールは馬車の方に向かっていく。
ボルトは辺りを見回し、少し先の路地に連れ込み宿があるのを思い出した。 

ボルトもアビゲイルが数多くの男と付き合っていたことは知っていた。
『色』の噂を聞いたことがあったが、本当に同時進行で付き合っているとは思っていなかった。
だからデールは自分の子供だと思っていたが、改めて見たデールの顔は自分に全く似ていなかった。

髪と目の『色』は同じ。だけど、それだけで自分の子供とは受け入れられない違いを感じた。
せめてアビゲイルに似ていたらよかったのに、どちらにも似ていない。
つまり、そういうことだ。

自分はアビゲイルに選ばれた男だと思っていた。
だが、男としてではなく、子供を武器に寄生する場所に選ばれただけだった。 

アビゲイルはデールをここに置いて、男に会っていたのだろう。そう思った。
もうどうでもいいことだと息を吐いた。

デールを追いかけようと馬車に向かうと、フードを被った男がデールに近づいていた。
『デールが狙いだ』と気づき、ボルトは走った。

男が刃物を取り出して構えたのを見て、デールに覆い被さった。
失敗した。男を蹴り飛ばせばよかった。そう思った瞬間には深々と刃物が刺さっていた。

 
自分の子供ではないだろうと確信したばかりなのに、体が動いてしまった。
か弱いものを守ろうとする気持ちが自分にあったということに驚いた。

薄れゆく意識の中で犯人の顔を見ると、デールそっくりだった。
あぁ、そうか。コイツがデールの父親か。
今頃になって自分に子供がいると知ったのか?アビゲイルが告げたのか?

そうだとしたら、本当にろくでもない女を妻にしてしまったな。


子供の父親かもしれない男が他にもいると知っていれば、すぐに結婚しなかっただろう。
そうすればリディアも虐待されることもなかったのにな。

リディアはユーフィリアが連れて行くはずだった。
だけど、アビゲイルが言ったんだ。

リディアをここに置いておけば、将来役立つかもしれない。
爵位が上の貴族との縁や、もしも伯爵領が不況状態になった時に商人や老人がリディアと引き換えにお金を援助してくれるかもしれないから、と。

両親にもそのことを伝えた。お金とリディアの引き換えの話は省いたが。
両親も納得してくれたので、リディアが父親を選ぶように侍女に指示しておいたのだ。

自分の子供ではないリディアは、アビゲイルにとっては玩具のようなものだったんだな。
いたぶって遊び、有望な貴族家の目に留まらなかったら売ればいい。そんな感じだろう。
 

両親に毒を与えたのも、どうせろくでもない理由だ。
さっさと領地に追いやっていたもんな。王都にいてほしくなかったんだろう。
ひょっとしたら、デールが俺の子ではないと気づいたことが毒を与えた原因だったのかもしれない。


あ~あ。アビゲイルに関わったことが失敗だったな。
今思えば、体で次々と男を篭絡する毒女じゃないか。娼婦と変わらない。

ユーフィリアが妻のまま、いろんな女と遊んでいる方が楽しかった。
まぁ、ユーフィリアには迷惑な話だろうけどな。
だけど、ユーフィリアも悪いんだ。触れようとすると強張ったりするから抱けなくなった。


ろくでもない男だけど、子供を庇って死ぬことで少しはマシな評価になればいいけどな……… 




 
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