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それからすぐに、伯爵夫妻は体に違和感を覚え始めた。
目まい、腹痛、吐き気、手足の痺れ、重い症状ではないけれど一向に良くならない。
アビゲイルが何かしたのではないかと思い、医師に毒の疑いがないかと聞いても、毒ではないと言われた。

仕事にならず、息子夫婦から領地での静養を言われて向かったのが2年ほど前だったという。

良くなったと思っても、すぐに同じ症状に戻る。
それを繰り返していたが数か月前、医師と侍女が急にいなくなった。

その医師が処方していた薬を飲まなくなると症状が良くなった。
薬が悪かったのではないか?そう思い、別の医師に診てもらった。
すると、軽い毒の症状がずっと続いているようだと言われたという。
解毒剤を飲み始めると、どんどん回復していったという。


「この家からついてきた侍女が処方された薬に毒を定期的に入れていたのかもしれない。」


医師と侍女。2人が共謀していたのなら、症状が良くなるはずがなかった。 

 
「やっぱりアビゲイルの指示だったようだな。
 王都にいた侍女が毒のことを知っていたのは、偶然見てしまって金で口止めされたようだ。
 『殺すほどの毒ではない。領地で静養させる理由をつくるだけだから』と。
 だが、領地についてきた医師と侍女が急にいなくなった理由がわからん。」

「……リディアに関係があるのかもしれません。
 伯爵夫妻が領地に行かれてから、リディアは虐待されていました。
 ですが、8歳になると子供のお茶会が始まります。
 リディアの教育や成長を止めていたけど、いい相手を探すためには教育が必要になる。
 だけど、やる気を失ったリディアはアビゲイルに怯えていた。
 毒を止めて元気になった夫人に再教育をお願いするつもりだったのでしょう。
 いい家庭教師を呼んでもらって。
 義母の自分に責任を負わされたくなくて、戻ってきてもらおうと思った。
 そんなところではないでしょうか。」

「……殺すほどの毒ではなかったというのは、そんな理由か。
 私には伯爵の仕事を。妻には孫たちの教育を。
 自分たちはしたいことをして過ごしたかった。そんなとこだな。」


ため息しか出ないような空気だった。


「アディール殿、ユーフィリア夫人、リディアを預かってもらっていて申し訳ない。」

「いえ、娘ですから。」


リディアは虐待を確認後、グリーン伯爵家に来ている。


「実は、デールはアビゲイルの実家が引き取ることになった。
 あの男がデールを自分の子供だと思ったように、デールはボルトの子供ではないと思う。
 証明はできないが、できないからこそ、このオラン伯爵家を継がせられない。
 リディアに継がせたいと思う。」

「リディアに、ですか。」

「ああ。だが、まだ8歳のあの子に祖父母との暮らしを強制するのは可哀想だ。
 あの子が15歳で学園に入学するまで、2人の子供として育ててはくれないか?
 勝手なことを言うようだが、それがいいと思うんだ。」


リディアはグリーン家に来てから、父親違いの弟妹と触れ合って笑顔が戻ってきた。
グリーン家の養女にすればいいとアディールは言ってくれているし、自分を新しいお父様だと認めて欲しがっている。
4歳の頃なら気にすることもなかっただろうけど、8歳の今はいろいろ理解していて、リディアは嬉しいと思いつつも戸惑っている。

グリーン家に連れてきたのは、ボルトのいるオラン伯爵家に帰したくないから。
アビゲイルとは離婚するだろうとは思ったが、ボルトに任せることはできないと思った。
だけど、オラン伯爵家はボルトが亡くなったために跡継ぎがいなくなった。

リディアがオラン伯爵家の跡継ぎになる。

これはリディアの正統な権利でもあり、縁組にも有利となるはず。
なんせ、今のリディアの評価は虐待児なのだ。
嫁にと望む家はなくても婿を取るなら次男三男から申し込まれるはず。 


「はい。リディアを私たちの娘として、愛情込めて育てます。
 オラン伯爵家を継げるよう、教育もしていきます。」

 
こうしてリディアはグリーン伯爵家預かりのオラン伯爵令嬢として暮らすことになった。


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