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ボルトを刺した男は逃げようとしたが、刺さった刃物を抜こうと手間取った。
愚かにも家紋のある刃物を使用してしまったことから、置き去りにできなかったのだ。
結局、武器がそれ以外にないことに気づいた御者と通りがかった男が取り押さえた。
 
ボルトの傷は深く、死亡した。



刺した男の供述を、オラン伯爵家で伯爵夫妻とユーフィリア、アディールが聞いた。


「犯人は、ネイビル子爵令息ワーレル。本人曰く、デール君の父親です。
 今の幸せを邪魔する恐れのあるデール君を排除したかったそうです。
 デール君をボルト殿が庇ったために刺してしまった。というのが真相ですね。
 自分の子かもしれないと聞いたけど、見かける機会がない。
 だけど、数か月前にあの場所で見かけてしまった。
 デール君が自分そっくりなので間違いなく自分の子供だが妻には言えない。
 悩んでいたら、アビゲイルが犯罪者になった。
 引き取れと言われたら困るのでデール君を殺害してなかったことにしたかった。
 ということです。」


騎士が報告を終えて帰った後、オラン伯爵が言った。


「私が不用意なことを言ったせいだな。まさかこんなことになるなんて……」


オラン伯爵は経緯を語ってくれた。

2年ほど前、デールを出産してアビゲイルがボルトの再婚相手として社交界に2人で出るようになってから、伯爵夫人が知り合いから言われた。
 
『尻軽で有名な方を新たな嫁に迎えるなんて素晴らしいですね。お孫さんは息子さんに似てます?』と。

知らなかったアビゲイルの男性関係を聞いた夫人は、夫である伯爵に報告した。
伯爵夫妻はデールを改めてまじまじと確認し、ボルトには全く似ていないと思った。

アビゲイルは妻子あるボルトと付き合っていたのだ。
初めて会った時は愛人志望の女性で、ボルト以外にも経験があるのだろうとは思った。
だが、ボルトが妻と不仲なために、子供ができたことで愛人ではなく自分が妻になれると思ったのだろう。
実際、ボルトはそのようにした。
ユーフィリアの実家とは強力な政略関係にあったわけではない。
本当はアビゲイルの子供を庶子とすべきだが、ユーフィリアが離婚したいのならば意思を尊重してやろうと思って離婚・再婚を許可したのだ。


しかし、デールはボルトの子供ではないのか?では誰の子供だ?

アビゲイルがボルトと付き合っていた時期に同時進行していた男が何人いたのかわからない。

だが、伯爵はある夜会でデールに似た男を目にしてしまった。

まさか、と思いつつも鎌をかけるように話しかけた。


「君もうちの嫁と付き合いがあったと聞いたが確かかい?」

「あ、アビゲイル嬢、いや夫人ですね。はい。まぁ、若気の至りと言いますか、ええ。
 なぜか自分が選ばれると変な自信があったんですよね、あの頃は。
 だけど、僕は選ばれなかった。落ち込みました。ですが妻と出会えました。
 アビゲイル夫人との付き合いで得たものは妻に活かされて喜んでくれています。」


そう言って男は思い出すようにニヤニヤし始めた。

妻を喜ばせる性技をアビゲイルから教え込まれたということか。
伯爵はこの男にイラっとした。


「そうか。それは良かったな。だが、うちには君にそっくりの男の子がいるんだ。
 どういうことだと思う?」

「は?……え?……そんな……僕の子?嘘だろ?僕は関係ない!」


男は真っ青になって走り去った。その男がワーレル・ネイビル子爵令息だった。


あの男の子供の可能性が高いと思った伯爵夫妻は、ボルトに内緒でアビゲイルを問い質した。


「ネイビル?ああ、確かに関係がありましたよ。それが何か?」

「デールはあの男の子供じゃないのか?そっくりじゃないか。」

「う~ん。それはどうでしょう。そうかもしれないし?そうじゃないかもしれない。
 ボルトの子供だっていう可能性ももちろんありますよ。」

「自分でもわからないということか。」

「ええ。そうだろうとは思っていましたが、私の噂を知らなかったのですね。
 助かりました。揉めずに結婚できて。
 ボルトは自分の子供だと思っていますよ。何を言っても信じないと思います。
 彼は数多の男から自分が選ばれたということを誇りに思っていますからね。」


デールが誰の子かは誰にもわからない。 
そのことが、ボルトに事実を伝えることを躊躇わせていた。



 


 


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